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大阪地方裁判所 平成7年(ワ)1997号 判決 2000年2月23日

原告

羽田友子

右訴訟代理人弁護士

渡辺和恵

宮地光子

西晃

甲事件被告シャープライブエレクトロニクス販売株式会社承継人兼乙事件被告

シャープエレクトロニクスマーケティング株式会社

(以下、単に「被告」という。)

右代表者代表取締役

曽我貞雄

青木万宗

小熊力や

森尚夫

大塚雅章

植田英三郎

松下一晴

辻正太郎

右訴訟代理人弁護士

高坂敬三

夏住要一郎

間石成人

鳥山半六

岩本安昭

阿多博文

主文

一  被告は原告に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成七年三月一八日から支払い済みまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告が職種グループの「S3」の地位にあることを確認する。

二  被告は、原告に対し、三七六三万一九八一円及び別紙「遅延損害金一覧表」記載の請求金内金ごとに同表「起算日」欄記載の日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、平成一一年九月以降毎月二五日限り、一三万三二〇〇円及びこれに対する各支払日の翌日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の従業員である原告が、女性であることを理由に被告から仕事の配置や昇格及び賃金に関して不利益な差別を受けたと主張し、昇格した地位の確認及び債務不履行または不法行為を理由とする損害賠償の支払を求めた事案である。

一  前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上明らかな事実等)

1  被告は、昭和二三年五月一八日に設立された通信機械器具、電気機械器具の販売等を目的とする会社であり、シャープ株式会社の関係会社(緊密な提携関係にある会社をいう。以下、同じ。)である。

被告は、旧商号を大阪シャープ電気株式会社(以下「大阪シャープ」という。)と称していたが、昭和六二年一月、シャープエレクトロニクス販売株式会社(以下「シャープエレクトロニクス」という。)と商号変更し、さらに平成一〇年一〇月一日甲事件被告シャープライブエレクトロニクス販売株式会社(以下「シャープライブ」という。)を吸収合併して、同日現商号に商号変更した。

被告の平成八年一月一日現在における従業員数はパートタイマー三四八名を含めると二五八七名であった。

シャープライブは、昭和四一年二月、大阪シャープから営業の一部譲渡を受けて浪速シャープ電気株式会社(以下「浪速シャープ」という。)の商号で設立されたものであり、さらに、平成四年四月、シャープエレクトロニクスから営業の一部譲渡を受けるなどしてシャープライブに商号変更した。

同社は、シャープ株式会社の関係会社であり、平成七年四月一日現在における従業員数はパートタイマー四八名を含めると一一七五名であった。

シャープライブは、平成一〇年一〇月一日、被告に吸収合併された。

(以下、シャープ株式会社及び被告を含む関係会社を総称するときは「オールシャープ」という。)

シャープ株式会社及び関係会社従業員はシャープ労働組合(以下「労組」という。)に組織されている。労組は、組合員の賃金実態調査を行い、毎年一回発行される「調査時報」にその調査結果を報告している。

2  原告は、高卒の学歴で、昭和三八年七月に大阪シャープに不定期採用(非卒業時採用)で入社した(入社時、二二歳であった。)が、昭和四一年に浪速シャープに移籍となり、平成七年二月末日までシャープライブに在籍した。

平成七年三月、シャープライブが首都圏、近畿圏の各商品受注業務をシャープエレクトロニクスに委託したことに伴い、その頃シャープライブの近畿統括営業部中央商品受注センターに所属していた原告は、同月一日付で合併前の被告に移籍し、現在被告の近畿統括営業部西日本受注センターに勤務している。

原告が、シャープライブから被告に移籍するにあたっては、シャープライブでの在籍期間を被告での在籍期間として通算するなど、労働諸条件はすべて原告とシャープライブとの労働契約をそのまま被告が承継するものとされた。

3  被告の賃金制度(但し、資格が主任以下、職務が係長以下)

被告(大阪シャープ、シャープエレクトロニクスと称したころを含む。)とシャープライブとでは、同一の賃金制度が採用されており、その概要は以下のとおりである。

(一) 賃金制度は、従業員の従事している仕事内容、能力発揮度及び年齢に基づいて各従業員の給与を決定することを基本としており、これを「職種別賃金制度」と称している。

従業員の給与は、賃金(狭義)、休業手当、賞与及び退職金に分類される。このうち、賃金は基準賃金と時間外手当等各種手当からなる基準外賃金とに分けられ、さらに基準賃金は基本給と手当(資格手当及び職務手当、家族手当、住宅手当であり、その支給基準及び支給額は固定的に定められている。)に分けられる。月例の賃金は毎月二五日が支払日である。

そして基本給は「年齢給」「職種給」及び「職能給」から構成されている(ただし、最終学歴卒業後二年未満のものは、「未格付者」と呼ばれ、後記の個人格付は行われず、その基本給は専ら学歴と年齢によって決定される。)。

(二) 賃金(狭義)

(1) 「年齢給」は年齢とともに増加していく標準的な生計費に対応する賃金であり、基準年齢(入社時における最終学歴毎に設定した一定の年齢に卒業後の実経過年数を加算したもの)に応じて年齢給を定めた「年齢給テーブル」が設定され、各従業員の毎年四月一日現在の基準年齢に基づいて年齢給額が決定される。年齢給テーブルは毎年労組との賃金改訂交渉の結果に基づき四月に改訂される。年齢給には、男女差別の問題は生じない。

(2) 「職種給」は担当する仕事の難易度とそれに対する習熟度(経験年数)に応じて金額が決まる賃金であり、職種給の額を定めた「職種給テーブル」が設定され、この職種給テーブルにおいて、仕事の難易度は後記のとおりA2・B2、A3・B3、A4・B4、A5・B5、S1ないしS4の職種グループとして段階的に区分され、他方習熟度は各職種グループごとに一号から一五号までの「号」として表されている。

この習熟度を反映する「号」は経験年数に対応したものであり、満五八歳以上の者及び年間勤務日数の四分の一以上欠勤又は休職した者を除き、毎年四月に一号ずつ自動的に昇号する。

職種給テーブルも毎年労組との賃金改訂交渉の結果に基づき四月に改訂される。

(3) 「職能給」は担当している仕事を遂行する能力や仕事の出来映えの評価を反映する賃金であり、毎年の評価結果の積み重ねによって金額が決まる。

被告では、毎年四月に、労組との賃金改定交渉の結果に基づき職種グループ毎の標準昇給額を設定するが、これに人事考課制度に基づく従業員の仕事の遂行度、知識技能の発揮度に対する査定を反映させた金額が「職能給昇給額」となる。但し、査定に当たっては、次のとおり上限及び下限が設定されている。

A4・B4以下は、標準昇給額の上下三五パーセントの範囲

A5・B5、S1ないしS4は、標準昇給額の上下四〇パーセントの範囲

こうして毎年従業員各人ごとに決定された昇給額の累積した額が「職能給」である。

(三) 賞与、(ママ)

賞与は一二月及び六月の年二回支給される。

(1) 支給対象期間

ア 年末賞与 三月一六日から九月一五日

イ 夏期賞与 九月一六日から翌年三月一五日

(2) 支給方式

九月一五日及び三月一五日の経常月収及び支給月数を基準に次の算式によって算出される。

経常月収(基本給+資格手当+家族手当+住宅手当)×出勤係数×{支給月数(基本部分)×査定係数×支給月数(一律部分)}

支給係数は、一律部分(月数)と職種グループごとに定められた基本部分(月数)とからなり、査定係数は、右の基本部分についてのみ上下一〇パーセントの範囲内での査定に基づき決定される。

出勤係数は、欠勤その他の不就業一日につき〇・六七パーセントを控除する。

4  職群分類と個人格付

(一) 右のとおり、基本給のうちの職種給及び職能給は、本人の担当している仕事の難易度やこれに対する遂行能力に対する評価によって決まるため、被告らでは、様々な仕事を別紙「職群分類と定義」のとおり分類している。

次に、右のようにして分類された技能・技術職(A職群)、事務・販売職(B職群)については、その重要度や難易度に基づき、別紙「分類基準」記載のとおり、その程度の低いものから高いものへ順に、2ないし5の四段階のグループに、また専門職及び準管理職(S職群)については、職種にかかわりなく、仕事を遂行する能力に基づき、別紙「専門職昇格基準」<略>記載のとおり、その程度の低いものから高いものへ順に、1ないし4の四段階のグループに、それぞれグループ分けしており、このようなグループを「職種グループ」と称している。

各職種グループの対応関係は、次のとおりである(S1は技能職・特務職のみの制度である。)。

<省略>

そして、各職群、各職種グループ毎の仕事をその種類と程度に応じて、より細かに細分化し、これを「職種一覧表」(<証拠略>)にまとめているが、それぞれの仕事が職種一覧表のいずれに該当し、したがって、いかなる職群のいかなる職種グループに属するかを決定することを「職種格付」と称している。職種格付を前提に、個々の従業員の担当している仕事によって、同人が、どの職群の、どの職種グループに該当するかを決定することを「個人格付」と称している。

なお、右の職種グループ体系は現行のものであるが、これまでに昭和五〇年及び昭和五八年の二度の改訂を経てきており、従前、職群は、P職(作業職・特務職)、M職(事務職・販売職・技術職)、H職(上級職)、L職(準管理職)に分類され、さらにP職群及びM職群は重要度等により数段階に分類されていた。

現行体系に至るまでの変遷経過とP、M、H職群の現行体系との対応関係は別紙「職種体系変遷経過対応表」記載のとおりである。

(二) 個人格付の手順

個人格付の具体的な手順は次のとおりであり、専門職種内での昇格を除き、事業場内格付委員会において労使の協議によって行われることになっている。

(1) 各職種グループごとに、これに格付できる従業員の下限年齢(毎年四月一日現在の基準年齢)が定められている。

格付下限年齢は、A2・B2が一七歳、A3・B3が二一歳、A4・B4が二三歳、A5・B5・S1が二五歳である。

(2) 現行格付がA5・B5以下の者について

ア 各地域ブロックごとの統括営業部において、毎年一一月下旬までに所属長である部長、所長に同年一〇月末日現在における各従業員の仕事内容、新格付案を記入した職種別賃金個人格付表を作成させて提出させる。

しかる後、統括営業部において、各所属長から提出された職種別賃金個人格付表に基づき、被告らの格付案を作成する。

イ 他方、労組においても、毎年一〇月下旬全組合員に仕事内容調査用紙を配布して、各人に一〇月末日現在の仕事内容、現在格付されている職種グループ等を記入して提出させ、各組合員から提出された仕事内容調査用紙に基づき、一一月中旬労組の第一次格付案を決定して各組合員に通知する。

この第一次格付案に異議のある者は、労組支部に格付異議申請書を提出して再審査を求めることができ、格付異議申請書の提出があったときは、労組は、同月下旬、再度調査、審議のうえ、第二次格付案を作成する。なお、この労組第二次格付案は本人にも通知される。

ウ 労使双方数名からなる事業場格付委員会において、右ア、イにより労使双方で作成した格付案をつきあわせて協議し、翌年一月中旬各人の最終的な格付を決定する。

エ 格付の決定に当たっては、各従業員の担当している仕事内容が、「職種一覧表」記載の職種概要説明に照らし、現行の職種グループより一ランク上の職種グループに格付された業務に該当すると認められ、かつ、下限年齢を満たしているときに昇格させることになるが、この「一ランク上の職種グループに職種格付された業務に該当すると認められる」か否かについては、人事考課に基づき、各従業員の仕事の出来映えを評価して判断する。

オ なお、担当している仕事がS1、S2の職種グループに職種格付された業務のない部門にいる現行A5・B5の者については、人事考課に基づき専門能力、技能が専門職昇格基準所定の職能要件を充たすと認められるときにS1、S2に昇格させることがある。

また、係長(S3)、班長(S2)の職務発令は個人格付がS1以上の者の中から行うのが原則であるため、個人格付がA5、B5以下の者に対して右の職務発令を行うときはS1以上への昇格と同時に行う。

(3) 現行格付S1以上の者について

ア 毎年一二月上旬、定められた昇格基準(下限年齢、現行格付の期間、職務発令の有無)を満たすとしてリストアップされた者の中から、各所属長が、人事考課に基づき、専門能力、技能が専門職昇格基準所定の上位の職能要件を満たすと認められる者を選抜して統括営業部長に報告し、その中からさらに統括営業部長が、昇格妥当と判断される者を昇格候補者として選抜して管理部に提出する。

イ 同月中旬、管理部において、各統括営業部長から提出された昇格候補者について調整を行い、管理担当役員の承認を得て、昇格者を決定する。

(4) このようにして決定された各従業員の新格付は、昇格の有無にかかわらず、毎年三月の給与明細に記載されて本人に通知させる。

5  被告の人事考課について

(一) 人事考課は、上期(四月一日から九月三〇日まで)及び下期(一〇月一日から三月三一日まで)を対象期間として年二回行われ、各従業員の所属長が第一次考課者、統括営業部長が調整者(第二次考課者)となる。

(二) 考課は、「業績評価」と「総合評価」の二種からなり、「業績評価」は賞与に、「総合評価」は昇格、昇給、異動等に反映される。

別紙「評価項目等一覧表」<略>記載のとおり、業績評価は、「成果」「プロセス(革新性、責任感等)」の各評価項目からなり、総合評価は右の評価項目に「能力(知識・技能、創造・企画力)」を付加した各評価項目からなっており、いずれの評価項目も五段階評価され、これに予め定めた同表「ウェイト」欄の数値を乗じて算出した点数の累計(一〇〇点満点)をもって、各従業員の評点とされている。

そして、各従業員の評点をもとに、五段階評価の概評を出し、予め概評毎に定めた分布制限(その内容は、別紙「分布制限一覧表」<略>記載のとおり)を考慮に入れて相対評価を行い、改めて評価点数を付け直し、しかる後、評価点数に基づき概評を付け直す。

以上の考課結果をさらに調整者が調整、修正を加えたうえ、最終的に各従業員の考課を決定する。

従業員各人は、人事考課の評定結果を知りうるシステムにはなっていない。

6  原告の個人格付

原告は、平成三年までB3(改訂前はM4)に格付けられてきたが、同年度からB4に昇格した。現在(口頭弁論終結時)もB4のままである。

7  原告と男性従業員との賃金格差等について

(一) 昭和四五年度から平成一一年度一一月までの原告の賃金等は別表1<略>及び2の「原告の賃金」欄<この欄略>記載のとおり(基準賃金、夏期及び年末賞与欄記載の各数値)であり、昭和六〇年度以降の原告の賃金等の詳細は別表10記載のとおりである。

他方、昭和四五年度から平成一一年度一一月までのオールシャープにおける原告と同一基準年齢、同学歴、不定期入社の男性従業員(労組員)(以下で「同一条件」というときは、原告と同一基準年齢、同学歴、不定期入社をいうものとする。)の平均基本給等を算出すると、別表1及び2の「同一条件男性社員の賃金」欄記載のとおり(基準賃金及び夏期及び年末賞与欄記載の各数値)である。

なお、右別表の「同一条件男性社員」欄記載の格付は、原告と同一基準年齢、同学歴の男性従業員を抽出して、格付毎にその基本給の平均額を算出し、この格付毎の平均基本給のうち、原告と同一条件男性の右平均基本給額に最も近い額の格付である(但し、被告は、右格付の算出過程の正確性については争わないが、これをもって原告と同一条件男性の「平均格付」とすることの合理性については争っている)。

(別表2には、被告の認否しない平成一一年一〇月及び一一月分の賃金が含まれているが、弁論の全趣旨から被告はこれについても争わないものと認められる。)。

(二) 昭和六〇年度から平成六年度までのオールシャープの男性、女性各従業員(組合員)の各年度の基本給最高額、最低額及び平均額並びに格付の最高及び最低は別表3<略>記載のとおりである。

同別表記載の平均の格付は、右(一)同様の手順で得た数値である(右(一)同様、算出過程の正確性に争いはないが、これをもって平均格付とすることの合理性には争いがある。)。

(三) 平成六年一二月現在において、原告が配属されていたシャープライブ近畿統括営業部の人員構成は別表8<略>のとおりである(弁論の全趣旨から争いはないものと認められる。)。

(四) 平成六年四月現在において、原告が配属されていたシャープライブ近畿統括営業部中央商品受注センターに在籍する従業員の在籍状況は、別表9<略>のとおりである。

二  争点

1  原告が女性であることを理由とする仕事配置の差別(昇格差別)、昇進差別、人事考課による差別が存するか否か

2  損害賠償請求権(不法行為または債務不履行)及び地位確認請求権の有無及び損害額

3  右損害賠償請求権について消滅時効が完成したか否か

第三当事者の主張

(争点1―男女差別の有無―について)

一  原告の主張

1  オールシャープにおける男女差別の実態

オールシャープでは適用される賃金制度やその運用は同一であるところ、オールシャープにおいても従業員(組合員)間に次のような男女間格差が存する。

(一) シャープ株式会社の場合も、関係会社の場合も、高卒採用者は入社(一八歳)後二五歳までは男女間で賃金格差はあまり見られないが、それ以降は男性の方がどんどん給料が上がっていくという傾向がある。

また、高卒定期採用者の男女間には初任給の格差はなく、二三、四歳位まではほぼ同様の賃金水準であるにもかかわらず、その頃から差が出始め、その後は男女間の格差は拡大する一方であるが、このことは不定期採用者の男女間でも同様である。

(二) 格付B4の下限基準年齢は二三才(ママ)であるが、昭和六〇年時点で基準年齢二三才(ママ)の男女を比較すると、男性は九二、三パーセントがB4に格付けられているにもかかわらず、女性の場合は僅か一〇パーセント程度しかB4に引き上げられていない。そして、このことは年齢が高くなればなる程より鮮明になり、例えば三四才(ママ)以上になると女性はなかなか格付が上がらなくなる。

(三) 平成二年一一月現在において、B5、A5、S1の下限基準年齢である二五歳以上の女性一六三七名中、B5、A5、S1以上に格付けされているものは、わずか一一・五パーセント(男性は八二・七パーセント)であり、女性の格付が男性に比べて著しく低い。

平成一〇年における四〇歳以上の従業員をとってみても、男性の八六パーセントがS職以上に格付されているのに対し、女性の場合は、九〇パーセント以上がS2にもなっていない(別表4。同別表は、調査時報の平成八年度及び平成一〇年度においてオールシャープにおける高卒、不定期採用の四〇歳以上の男女の格付分布状況をまとめたものである。)。

2  シャープライブにおける格付における男女間格差の存在

(一) 別表1から明らかなとおり、原告と同一条件男性の平均格付は、昭和四五年度にはM5(現行のB5)に、昭和四八年度H(現行のS2)に、平成元年度には、S3となっている。他方、原告は、勤続二八年目の平成三年度までB3に格付され、それ以後もB4にとどめ置かれたままである。

また、別表3によれば、平成六年度までの原告の格付は、同一条件男性の最低の格付(B5)よりも低く、同一条件女性の最高の格付でもB5にすぎない(被告は、母数が少ないとして別表3の統計的価値を非難するが、別表4によっても、ほぼ同様の結果となっている。)。平成一〇年度までの格付分布をみても、別表5(同別表は、別表3の格付分布状況を平成一〇年度まで延長して付加したものである。)のとおり、男性は平成九年度には、最低でもS2になっているのに対し、女性でS2になっている者はいない。

さらに、別表8のとおり、平成六年一二月現在におけるシャープライブの近畿統括営業部の従業員は二九二名であり、そのうち男性は二二八名、女性は六四名であるが、男性のうち、管理職は七九名、専門職は九二名で、専門職以上の比率は七五パーセントに及んでいるのに対し、女性のうち、管理職に就いている者はなく、専門職に昇格している者もわずか二名で、専門職以上の比率は三パーセントに過ぎない。

(二) なお、被告は、別表1及び2の「原告と同一条件男性社員の賃金」覧記載の格付や別表3の「男性社員」欄記載の格付について、定期採用者と不定期採用者とで基本給額には差異があること、上位に格付られた者の基本給が低位に各付けられた者の基本給より高いとは限らないことを理由に、右格付をもって、原告と同一条件男性の平均格付とすることの合理性を争っている。

しかしながら、第一に、これらの別表における同一条件男性社員の平均基本給は、不定期採用男性社員のみを対象として算出しており、定期採用か不定期採用かは考慮されている。

第二に、被告の職種別賃金制度のもとでは、基本給は、年齢給を除いて、職種給も職能給も職種グループの格付に規定され、上位の格付ほど高額となるはずであって、調査時報の統計数値からオールシャープの高卒男性の格付毎の平均基本給を算出すれば、その結果は別表6<略>のとおりであり、格付の高低と基本給の高低の相関関係も明らかである。また、被告が、原告と同一条件で原告より基本給が下回る等と指摘する従業員は、別紙7<略>記載のとおり、そのほとんどがA職群であり、B職群の者も途中入社の高齢者や定年後の再雇用者と考えられる者などであって、原告との比較対象としては適当でない。

したがって、右各別表記載の格付をもって平均格付と推定することには十分な合理性がある。

3  シャープライブにおける昇格差別の構造

(一) シャープライブにおいては、右のような男女間昇格格差が生み出される原因として、人事制度における以下のような構造上の問題が存在する。

(1) シャープライブの賃金決定要因は、大きくわけて仕事の配置と人事考課であるが、仕事の配置も、人事考課により判断して行うとされている。さらに、人事考課は、仕事の配置、格付を通じて、職種給、職能給昇給額、賞与支給月数、資格手当に影響し、とりわけ、職能給の昇給および賞与においては、査定係数という形で、直接その額を決定している。

しかるに、シャープライブの人事考課には、

ア 評価項目は評価者の主観が容易に入り込みうる抽象的なものであるうえ、評価項目そのものが、仕事のレベルに影響されるものとなっている(たとえば、別紙「評価項目等一覧表」の「革新性」という評価項目は、担当業務に革新性を発揮しうるような裁量性がない限り、評価されることは不可能か困難である。)

イ 正当な評価結果を歪める分布制限が存するのみならず、この分布制限は、一般グループ(A、B格付者及び未格付者)より準管理職(S格付者)の方が概評4の割合が高いなど準管理職に有利に設定されている

ウ 考課結果を労働者がチェックしうるシステムにもなっていない

などの問題があり、恣意的な運用を許すこととなっている。

(2) 個人格付の前提となる職種格付は、客観的一義的に決まるものではなく、価値判断であり、女性の担当業務が男性の担当業務に比して、不当に下位の職種グループに格付される可能性をはらんでいる。

(3) 専門職は、職能要件により運営され、専門職への昇格は、担当している仕事が職種一覧に示されているS1又はS2の職種に合致しているときのみならず、S職群のない部門では職種とは関わりのない専門職昇格基準を満たすと判断されたときにも行われることとされており、これらの昇格基準も、性差別的な偏見で運用されるときには女性を昇格、昇進から排除するための基準となりうるのである。

(二) そして、前記のような男女間の顕著な昇格格差は、結局のところ、人事制度が性差別的に運用されてきたことを示すものであり、男性には順調な昇格を実現するための計画的な仕事の配置が行われてきたのに対し、女性は、計画的な仕事の配置を受けることなく長期にわたって同一の職種グループに相当する仕事にとどめ置かれてきたものである。すなわち、

(1) 男性の場合は、その多くが基準年齢三二歳(原告の場合であれば入社後一〇年目に相当する)を迎えるまでに、一旦は狭義の販売職(いわゆるセールスマンの行う営業)に配置されるケースが多い。狭義の販売職については職種グループS2までの格付が予定されており、男性の場合は、狭義の販売職に配置されることによって、その時期にすでに専門職(S職)に昇格する足がかりを得ることができ、その後、専門職のない職種グループに格付されても専門職としての格付はそのまま維持される。そして専門職内での昇格は、職能要件による専門職昇格基準によって行われるから、一旦専門職に格付された男性は、その後は担当する職種にかかわりなく能力評価によって昇格することが可能となっている。その結果、原告と同一条件男性は、平均でも基準年齢三二歳までにS2に、同じく基準年齢四八歳(原告の場合であれば、入社後二六年目に相当する。)までにS3にそれぞれ格付されている。

(2) これに対し、女性には、右のような計画的な仕事の配置は行われてこなかった。

ア シャープライブは長年にわたって、販売職に女性を配置してこなかった。一九八〇年代後半になって、やっと女性も販売職に配置するようになったが、その場合でも女性は「ハイクック」(販売店、ユーザー宅、催し物会場等で電子レンジ等に関わる料理説明、効用説明を行い、電子レンジ等の販売を推進する業務)と称する外勤を伴う販売推進業務に従事させることを代表例として、その業務内容は男性一般の販売職とは異なっていた。

イ 女性が専門職のある職種に配置される場合でも (ママ)その中で低位の職種グループと評価される仕事に配置され固定される。

ウ 職務格付においても、性差別的偏見によって、男性が多くを占める職種の場合は、女性が多く配置される職種に比べ、上位まで職種格付が予定され、あるいは仕事内容において上位に格付されることが容易なものとなっている。

例えば、男性職(その職務に従事する者の殆どが男性である職種)である狭義の販売職には、S2までの職種グループが格付されているのに対して、女性職(その職務に従事する者の殆どが女性である職種)であるハイクックにはB4までの格付しかない。その結果、狭義の販売職等に配置されないことは、格付において著しい不利益を受けることになる。

また、原告が業務部時代に配置されていた販売推進企画の職種において、S2の職種グループに格付されている該当単位職種の販推企画や販売網企画の職種概要説明では、他者に対する「指示・指導」「教育」等、他の職種の部、課長が行っている業務に匹敵する管理職的業務を行うことまで要求される(<証拠略>)が、狭義の販売職において、S2の職種グループに格付されるためには、営業に通常伴う内容の業務しか要求されず、したがって、狭義の販売職の場合、管理職的地位の数の制約も受けずに上位の職種グループへ格付されることが可能になっている。

4  原告に対する男女差別の実態

原告は、入社以来現在まで、一度も販売職には配置されることなく、事務職(B3の格付でしかない職種名「販売推進企画」の該当単位職種「販推業務」もしくは「販売網業務」、上限がB5の格付までしかない職種名「商品管理」等)に従事させられ、その結果、長期間にわたって、B3、B4という低い格付にとどめ置かれている。

シャープライブや被告の個人格付の仕組によると、B5までの昇格は、一ランク上位の職種グループに職種格付された業務に該当すると認められたときであり、S2への昇格については、S2の職種グループに職種格付された業務に該当すると認められたときまたはS2の専門職昇格基準を満たすと認められたときであり、S3への昇格は、専門職昇格基準を満たすと認められ、係長もしくはこれと同等の職務発令を受けたときであるから、原告が現在もB4にとどめ置かれ、前記のとおりの同一条件の男性の平均格付の水準に達していないのは、まず第一に原告が、B5の職種グループと評価される仕事に配置されていないからであり、次にこのB5への格付を前提として、S2の職種グループに評価される仕事に配置されていないからであり、さらには、S3への格付の要件である係長もしくはこれと同等の職務発令も受けていないからである。

しかしながら、原告がB5、S2相当の仕事に配置されないのは、仕事配置における男女差別であり、また、係長もしくはこれと同等の職務発令も受けていないのは、昇進における男女差別であり、さらに、原告がS2に格付けられていないのは、昇格についての人事考課における男女差別である。

5  原告に対する仕事差別

(一) 原告の就労経過

原告はシャープ株式会社の関係会社間を次の通り転籍し、就労してきた。

(1) 昭和三八年七月 被告の前身である大阪シャープに入社(当時二二歳)し、同社管理部財務課に配属され、売掛金管理等に従事した。

(2) 昭和四一年二月 浪速シャープの設立に伴い同社に転籍し、昭和五一年まで同社管理部経理課に配属され、主として売掛金管理に従事し、その後同課機械室でオペレーター業務に従事した。

(3) 昭和五一年から昭和五二年途中まで、業務課に配属され、販売実績集計等に従事した。

(4) 昭和五二年四月から昭和五四年九月まで、商品課に配属され、受注業務、伝票集計、機械室でのオペレーター業務、新人指導等に従事した。

(5) 昭和五四年九月から平成二年一〇月まで(ママ)

業(ママ)務課に配属され、一般事務に従事した。

具体的には、電話受付等接客、販売実績集計等(特に新しい様式を作ったり、当時の今田社長からの指示で、過去の実績を比較する様式作りと資料収集による集計業務)、カタログや通達などの保管管理などであった。

被告は、この間の原告の担当業務が補助的であったと主張するが、資料作成の新様式を作成したり、カタログの有効活用(ミスマッチの調整)を行ったりしており、補助的業務のみにとどまっていたものではない。

ただし、昭和五七年四月に課長宮崎富孝の着任で仕事内容に変更があり、電話の受付業務が増大し、その他はコピー、販売実績表の集計、カタログの配布など補助的業務のみとなった。

昭和五九年七月に業務部パソコンルームに異動してからは、商品価格表の作成編集、販売店顧客住所録(取引先四店につき、月一回のイベントごとに作成)作成、販売実績表など種々の資料の作成、助成金補填申請書の作成更新、売上拡販申請書作成などに従事するようになった。

この間の業務も、被告が主張するように単なる機械的なものではなかった。

(6) 平成二年一〇月から平成四年三月まで、商品管理部に配属され、物品受領書(伝票)の確認、支店別の二、三級品の在庫状況に関する一覧表作成、商品直送などの例外処理業務に従事した。

なお、原告は、この時期から現在に至るまで、商品受注の例外処理業務に従事しているが、例外処理業務は、様々な事情から販売店の位置する所定の流通センターから配送できずに、他の商品在庫のある流通センターから配送したり、緊急を要する場合は、配送業者による配送を手配したりするもので、基本業務を熟知し、かつ、臨機応変さがなければ処理できない仕事である。

(7) 平成四年四月から平成七年二月まで、シャープライブ中央商品情報センター(後に中央商品受注センターと改称)に配属され、例外処理業務に従事したが、近畿圏内の支店との連絡や営業面の仕事も加わった。

(8) 平成七年三月、シャープエレクトロニクスに転籍し、以後現在まで中央商品受注センター(その後西日本受注センターと改称)にて、例外処理業務に従事している。

(二) 被告の主張する低評価の理由に根拠のないこと

(1) 業務部、パソコンルーム時代

ア 被告が原告の仕事振りの問題点として主張するかなりの部分が、電話応対に関するものであり、大別すると電話応対の態度についてのものと、注文した商品が届かない等の受注ミスとに分けられる。

このうち、電話応対の態度についての指摘は、客観的証拠が残らないものであり、いくらでも誇張することが可能である上、主観的であることは免れず、これを低評価の理由にすること自体が相当でない。

他方、受注ミスは、それが真実であるとすれば、社内の文書にも残る事柄であるし、また客観的なミスであるから低評価の理由にはなり得るものである。

しかるに、これを裏付ける社内文書等の客観的証拠はない。

原告の受注ミスに関しては(人証略)証言、さらに同人ら及び宮本の陳述書が提出されているが、これら証言や陳述書の記載は、受注ミスがあったという時期、その内容、原告の電話応対に起因すると確認した根拠等について相互に一致していないなど信用性の乏しいものというべきである。

また、課長宮崎に前後して、原告の上司として業務課長に就任していた古手川及び才木の陳述書は提出されていないし、宮崎は前任者である才木から原告の仕事ぶりについて何らの引継ぎも受けていない。

さらに、原告自身何らの制裁を受けることなく、七年間もの長期間、同課に勤務しているし、宮崎らも監督責任を問われていない。

以上によれば、原告の電話対応における受注ミスは被告の悪意の創作というべきであり、そのような事実はない。

イ 被告は、前記のような受注ミス以外にも、原告の入力ミスや通達配布ミスなどを指摘している。

しかしながら、通達配布ミスとして具体的に指摘されているのは、一度だけのことであり、しかも通達は締日の変更にかかわるもので、実害も考えられず、ミスと断定できるものではなかった。

また、入力ミスや仕事の遅さと指摘されているものは、その回数や時間を正確に測定されたようなものではなく、証拠にも残らない事柄である。被告が主張するほどのミスを原告が犯していたならば、原告はパソコンルームにおいても仕事を続けていくことができなかったはずであるが、原告は、六年の長期間にわたって入力業務に従事し、上司からも評価されていた。

(2) 商品管理部時代について

被告は、原告の二度の入力ミスのみを指摘するが、これのみで、この商品管理部時代における原告の低評価が立証できるものでない。しかも原告は、この入力ミスにその場で気づいて、上司に相談して訂正してもらうなど必要な行動をとり、取引先に何の迷惑も及ぼしていない。

(三) 原告は、昭和六三年以前からも人事申告書に販売職(広義)の仕事として唯一実現可能性があると思われたハイクックを希望し続けてきたし、平成二年ころには、上司である部長宮崎富孝に販売職への配置希望を伝え、その後の人事申告書でも販売職への異動を希望することを記載し、人事申告の際の質問事項にも答えて職種間異動に応ずる意思のあることを示している。

しかしながら、シャープライブは原告の意欲を一顧だにせず、長年にわたって同一の職種グループに相当する仕事にとどめ置いてきた。

(四) 以上のとおり、被告が主張する原告の仕事ぶりに対する低評価はなんら合理的な根拠を有するものではない。したがって、シャープライブは

(1) 原告が入社後遅くとも基準年齢三二歳に達する一〇年目までに、同一条件男性の平均と同じくS2に相当する職種グループの仕事(その一例としては狭義の販売職)に配置するべきであった。

(2) 原告が入社後遅くとも基準年齢四八歳に達する二六年目までに、同一条件男性の平均と同じくS3に相当する仕事に配置するべきであった。

しかるに、原告は女性であるが故に、例えば、男性であれが(ママ)通常配置される狭義の販売職に配置されなかったものであって、このような仕事の配置自体が男女差別である。

5(ママ) 原告に対する昇進差別

原告が勤続三〇年を経てもなお係長にすら昇進させられていないのは、昇進における明らかな男女差別である。

別表9のとおり、平成九年四月現在において、原告が所属するシャープライブの近畿統括営業部中央受注センター在籍の男性従業員一三名中二名が管理職で、六名が係長である。原告と同学歴で不定期入社の男性だけを比較しても、勤続一八年の男性が係長となっているし、中卒不定期採用の男性であっても勤続二四年で係長となっている。

平成二年一月から、原告と二人で商品受注の例外業務を分担している田中洸は、原告より後年の昭和四四年入社で、原告が指導したこともあるが、同人も係長となっている。その担当業務のほとんどが共通しており、田中のみが担当している業務は、営業部門との折衝や倉庫の在庫管理などごく一部であるが、それでも、原告は平社員のままである。

なお、被告は、別表9の番号9の男性は、勤続三四年で、未だ係長発令を受けていないというが、同人は中卒であって同一条件ではなく、比較対象として適当でないのみならず、昇格の関係でいえば同人の格付はS2である。

6(ママ) 原告に対する査定差別

シャープライブや被告における個人格付は、仕事の配置と人事考課が大きな役割を果たしているし、仕事の配置も、人事考課によって適性を判断して行うとされている。したがって、原告が受けてきた昇格差別は、人事考課における差別が原因となって生じたものというべきであるが、原告は、さらに昇給査定および賞与の査定係数においても、人事考課による不利益を受けてきた。

原告の昇給査定率及び賞与査定係数は、別表10のとおりであり、平成五年度以降一貫して一〇〇パーセントであるが、平成四年度以前はマイナス査定がほとんどである。原告は平成四年六月に、その格付の低さについて社長に直訴し、さらには平成五年に原告代理人らが、シャープライブに、格付の男女格差の是正を求める内容証明郵便を送付し、その際、昇給査定の差別的取扱いを問題にした。それ以降、原告に対するマイナス査定が存在しなくなったことは、原告に対するマイナス査定が、合理的根拠のある公正なものでなかったことを強く推認せしめる。

このような恣意的な低査定が、原告の毎年の職能給昇給及び毎年の賞与を低額に押しとどめ、ひいては原告と比較対象の男性との職能給及び賞与における賃金格差を生み出したものである。しかしながら、前記のとおり、原告に対する低評価には何ら合理的な理由はなく、男女差別に基づく査定差別といわざるを得ない。

二  被告の主張

1  シャープライブの男女間における客観的格差について

(一) 平均格付推定の不合理性

原告は、別表1及び2の「同一条件男性社員の賃金」欄記載の格付、別表3の「平均」欄記載の格付をもって、原告と同一条件男性社員の平均格付であると主張するが、第一に、平均格付を推定する対象となった各格付毎の基本給額の平均には定期採用者と不定期採用者を含むものであるところ、この両者の基本給額には差異があるから、この差異を捨象すべきでなく、第二に、上位に各(ママ)付けられた者の基本給が下位に各(ママ)付けられた者の基本給より高いとは限らないのであって、以上の諸点からすると、原告がいう平均格付の推定には合理性がない。

(二) 別表1ないし3の統計としての不当性

(1) 別表1ないし3において、原告の比較対象となった男性は三五名(昭和六〇年度分)ないし二六名(平成六年度分)であるのに対し、女性は原告を含め、終始三名に過ぎない。格付や賃金は様々な要素により決定されるのであるから、このように数量において大差のある集団(女性三名では集団ともいえない)の間において、平均値や最高値、最低値を取り出し、その間に差があることをもって、それが公正な査定の結果ではないと考えること自体が経験則に反する。

(2) 右の女性らが就職した昭和三〇年ないし四〇年頃においては、現在と異なり、女性の就労期間が男性に比べ著しく短かったこと、男性は仕事、女性は家事という分担意識が社会一般に強かったことなど種々の社会的な環境や条件から、女性の労働そのものに対する意欲が男性に比べ一般的に乏しかったのであり、このことは公知の事実である。

そうすると、前記の格差に何らかの有意性を認めるとしても、それを専ら男女差別の意図に求めることは妥当ではない。

2  仕事配置の差別の主張について

従業員をいかなる業務に配置するかは、使用者の裁量において決定しうることであり、特定の従業員に対する業務の配置が違法であり不法行為となるためには、当該従業員に対する業務配置の目的、態様が著しく不当であり、右の裁量権の逸脱ないし濫用に該当する場合に限られる。

しかるに、シャープライブには仕事の配置における男女差別はない。

(一) シャープライブでは、内勤事務職以外の職種に女性を配置しないという事実はない。

他方、男性でも狭義の販売職に就いた経験を有しない者は多数存する。

(二) シャープライブが、女性を格付の低い職種グループに固定しているという事実もない。

原告は、B3の格付でしかない販推業務もしくは販売網業務、あるいは上限がB5までしかない商品管理に長期間従事させられたというが、原告がその業務を的確に遂行できれば、販売推進企画のより上位の該当単位職種である販推企画や販売網企画の業務を担当させられたのであって、その場合は職種グループの格付もS2まで望みうるものであった。しかるに、原告が低い格付の業務にとどまっていたのは、原告がより上位に職務格付された業務を担当させられるだけの能力を有していなかったことによる。

(三) 原告は、販推企画や販売網企画の職種概要説明を引用して、女性が多くを占める職種では上位に格付されることが困難になっていると主張する。

しかしながら、右職種概要説明にある「指示・指導」「教育」は職種の性格からくる職務内容の説明であって、部、課長等の管理職業務における指導、教育とは次元が異なる問題であるし、職種グループへの格付と管理職的ポストの数とは全く無関係である。

原告の主張は、職種概要説明を、これとは次元の異なる上位職種グループへの格付や管理職ポストの問題にすり替えようとするもので失当である。

(四) シャープライブでは狭義の販売職を経験した者が早く専門職に昇格するという傾向は存しない。

(五) 原告から、人事申告書においてはもとより口頭によっても、これまで狭義の販売職への希望が出されたことはなかった。平成二年に部長宮崎が原告から狭義の販売職への希望を受けたとの事実もない。

原告が昭和六三年ころの人事申告書で「ハイクック」への配置を希望したことはあるが、その希望の程度は「出来ればすぐに」「一年以内に」「機会があれば」の三段階のうちの「機会があれば」に過ぎなかった。

原告が平成五年及び六年に「ハイクック」を希望したことはあるが、第二希望である。

原告が、これまで狭義の販売職や「ハイクック」に配置されなかったのは、原告の希望に加え、能力、適性を考慮したからである。

3  職務発令における男女差別について

係長という役職には専門職昇格基準S3の職能要件が要求されており、その発令は、勤続年数の長短によるものではない。

原告は、その能力や勤務ぶりからして、未だB4の格付にすぎず、これに係長発令をするということはあり得ない。

4  原告に対する格付の妥当性について

被告には昭和五六年一〇月以前の社内文書が存しないため、右時点以降における原告の職務内容と勤務ぶり、格付の妥当性を以下のとおり主張する。

(一) 業務課(部)時代(昭和五七年四月から同五九年六月)

(1) 原告の担当職務

ア 販売実績の集計等(所定の様式に基づくデータの集計や転記作業)

イ 電話応対

ウ 通達等の他部門への配布および控えのファイリング

エ カタログ等の販売助成物の荷受け、整理作業

なお、原告は、昭和五七年四月に業務課長宮崎が就任してからは補助的業務のみとなったと主張するが、宮崎が着任時に、原告がそれまで行っていた仕事を取り上げた事実はないし、原告が「カタログミスマッチの調整」と主張しているのも、単に売れない商品の余ったカタログをセールスにもって行って、売れない商品を売るようセールスに求めるというものに過ぎない。

(2) 原告の勤務ぶり

ア 販売実績の集計等について

計算ミス等の初歩的な誤りが多く、処理速度も非常に遅かった。

原告は注意を受けても、言訳するだけで勤務ぶりは改善されなかった。

イ 電話応対について

自分に近い電話が鳴ってもなかなか出ようとせず、電話に出ても、社名や名前を名乗らず「もしもし、もしもし」と言うのみで、言葉使(ママ)いもぶっきらぼうであった。

相手の話している内容が理解できず、何度も聞き返すなど適切さを欠くため、取引先の感情を害してしまう事が多かった。

取引先からの営業担当者への取次ぎや商品の在庫問い合わせの電話を保留のまま長い間放置してしまうということがあった。

取引先からの電話を営業担当者に取り次ぐのを忘れたり、誤って別の担当者に連絡してしまうことがあり、また、取引先や注文内容の聞き間違え、担当者への伝言間違えがあった。

このため、取引先から、注文した商品が届かない等といった苦情がよせられ、取引先の中には、原告に用件を伝えたときは、後から念のために他の者に確認の電話をいれたり、取引先を訪れた営業担当者に確認を要求することがあった。

原告の上司や同僚、または営業担当者が原告に注意しても原告は言訳することが多く、勤務ぶりは改善されなかった。

ウ 通達等の配布およびファイリングについて

原告は、宛先が「代表者殿」となっている文書については、指示を受けない限り、それが至急に回付すべき通達文書であっても、数日間出張中の社長の机の上の山積み書類の下に置いたままであった。

(3) 格付の妥当性

原告の担当業務は、専ら機械的、補助的業務に過ぎない。

ア 販売実績の集計等は、職種一覧表の「販売推進企画<1>」の該当単位職種「販推業務」(概要説明「上司または上級者の指示に基づいて、企画推進された施策の実績集計・データ整理を行う業務」)及び該当単位職種「販売網業務」(概要説明「上司または上級者の指示に基づいて、販売網拡充施策推進の実績集計・データ整理を行う業務」)に該当し、その職種グループはB3である(<証拠略>)。

イ 電話応対は、基本的に従業員全員が対応するところから、右職種一覧表上特に区分されておらず、別紙分類基準の総括定義ではB2またはB3に該当する(<証拠略>)。

ウ 通達等の配布およびファイリング、同表の「一般事務」の該当単位職種「事務・技術・製造・販売部門の補助」(概要説明「各種文書の発送・収受・配付・ファイリング・複写・・・の定型業務」)に該当し、職種グループはB2である(<証拠略>)。

エ カタログ等の販売助成物の荷受け、整理作業は、「販売推進企画」の該当単位職種「販売網業務」(概要説明「上司または上級者の指示に基づいて、通達・パンフレット・・・等の発注・発送手配を行う業務」)に該当し、職種グループはB3である(<証拠略>)。

このように原告が担当していた業務はどれをとってもB2ないしB3に該当するものであり、しかもその達成度はいずれも不満足なものであったというべきであるから、右の期間において原告がB3に格付けられていたことは、過小評価ではない。

(二) 業務部パソコンルーム時代(昭和五九年七月~平成二年九月)

(1) 原告の担当職務

ア 価格表の作成(商品の機種名や営業担当者が手書した価格等をそのまま入出力するという一種の清書作業)

イ 販売店顧客住所録の作成

ウ 売上日報の作成(当日売上実績データの入力)

エ 当月累計実績表の作成(当月売上実績データの数値を入力)

オ 補填申請書の作成(販売店に対する販売奨励金等の社内決裁を得るための申請書を入力する業務)

(2) 原告の勤務ぶり

全体的に、原告はコンピューターの使用方法等を何度も教えなければならず、処理速度も遅く、入力ミスが多かった(ただし、販売店顧客住所録の作成は、取引先二店につき、年に一、二回程度集中的に行うもので、急を要するものでもなく、原告の能力程度でも大きな支障はなかった)。

とりわけ、価格表の作成については、原告の入力ミスが多かったこと等から、営業担当者によっては、原告作成の価格表を手書きで修正し、あるいは、自ら価格表を作成したりした。また、原告の作成した間違いのある価格表を販売店に渡してしまったため、値引きを余儀なくされることも数回あった。

パソコンルーム責任者からこの点を注意・指導されても、原告の勤務ぶりは改善されなかった。

原告は、内田司または河合雄一郎の作成したソフトウェアに基づき、その使用方法に従って、データを入力して価格表を作成したに過ぎず、原告がソフトウェアそのものを改善することはなかったし、順番を入れ替えるなどして価格表作成上の工夫をするということはあったが、原告が作成する様式は機種配列が支離滅裂でひどく見辛いものであった。

(3) 格付の妥当性

原告の職務は、基本的には、与えられた入力原案に基づき数字や文字をパソコンに入力するとともに付帯して発生するトラブルに対応することであったので、職種一覧表上は「情報管理<2>」「同<3>」の該当単位職種「オペレーション」(情報管理<2>の概要説明は、「コンピュータ周辺機器(I/O)、ワークステーション、端末機器等のオペレーション及び附随作業、手順に基づくオペレーション関連トラブル対策等を行う業務」、情報管理<3>の概要説明は、「コンピュータのメインオペレーション並びに周辺機器(I/O)、オペレーターへの指示、設備機器及びオペレーションに関連したトラブルについての状況把握・報告と対策処理を行う業務」)に該当し、その職種グループは、それぞれに対応し、B3、B4であった(<証拠略>)。

ただ、原告については、右のとおり入力ミスが多く、入力スピードが遅いうえ、トラブルについても十分に対応できていなかったものであるからB3が妥当であった(ママ)

(三) 商品管理部時代以降(平成二年一二月から平成七年二月)

商品管理部では、取引先からの注文内容をコンピューター入力して受注処理することを業務としており、通常は、この受注処理をすれば、伝票が流通センターに出力され、これに従い、流通センターから毎日の定期流通便により、商品が取引先に配送される仕組みになっている。このほか、同部では、右に対する例外処理業務(販売店の都合で急を要する等定期流通便に乗らないものについて、個別的に営業担当者が商品を流通センターに取りに行くとか外部の運送業者に配送を依頼するなどの例外出荷業務)や二、三級品(疵物商品)の保管管理や預かり商品(売却した上で保管を継続する商品)の在庫管理なども行っていた。

(1) 原告の担当職務

ア 伝票の区分け、整理等の補助的業務

イ 物品受領書の確認

ウ 支店別の二、三級品の在庫状況に関する一覧表作成業務

エ ワープロによる書類の作成

オ 預かり商品の在庫管理

カ 書類のFAX

キ 毎月の販売データの出力

ク 例外業務に関する商品配送や貸出、戻品等に関する業務

(2) 原告の勤務ぶり

出庫伝票(<証拠略>)の入力ミスがあった。

原告は未だにこれら伝票の見方や訂正方法等を把握できておらず、業務に関する基礎的な知識が乏しい。

このため、その訂正も原告の依頼を受けて上司が行った。

(3) 格付の妥当性

右の期間の原告の職務は、多岐にわたるが、概ね定型業務であり、職種一覧表に当てはめると次のとおりとなる。

「一般事務」の該当単位職種「商品管理事務」(職種概要説明「諸伝票の発行、仕訳整理出荷受付業務。送り状作成、配車、物品受領書整理業務」)で職種グループはB2(<証拠略>)。

「関係会社流通センター商品管理<1>」の該当単位職種「商品出入業務」(職種概要説明「貸出し品の台帳管理。返品商品内容点検の受入業務」)及び該当単位職種「商品保管配送業務」(職種概要説明「商品配送委託業者への配送並びに自動車配送手配等を行う業務」)で職種グループはB3である(<証拠略>)。

「関係会社流通センター商品管理<2>」の該当単位職種「商品保管業務」(概要説明「在庫調整結果の原因究明とデーター修正を行う業務」)に該当し、職種グループはB4である(<証拠略>)。

原告は、平成三年四月よりB4に昇格しているのであるが、原告の職務とその勤務ぶりに照らせば、B4は過小評価ではない。

(四) 以上のとおり、原告の担当している職種や勤務ぶりに照らせば、原告に対する格付は相当なものである。

(争点2―損害賠償及び地位確認請求権の有無及び損害額―について)

一  原告の主張

1  損害賠償請求権の有無及び額

(一) シャープライブ及び被告の不法行為

(1) 労基法四条違反

シャープライブや被告の職種別賃金制度のもとでは、昇格及び考課査定における男女差別は、すなわち賃金における男女差別であり、労働基準法四条に違反するものである。

(2) 民法九〇条違反

昇格および昇進における男女差別は、憲法一四条に違反する。

そして、憲法一四条を受けた労働基準法三条及び四条は性別を理由とする不合理な差別をも禁止する趣旨である。国際的にも、「国際人権規約」(昭和四六年に批准)では、同一の労働について同一の報酬を含む労働条件の男女平等の保障(A規約七条一項)、法の前の平等・差別の禁止(B規約二六条)が定められ、「女子に対するあらゆる形態の差別撤廃条約」(昭和六〇年に批准)では、雇用の分野において、女子に対して男子と同一の「労働の権利」「同一の雇用機会についての権利」「昇進」「雇用の保障」「労働に係るすべての給付及び条件についての権利」「同一価値の労働についての同一報酬及び同一待遇についての権利」「労働の質の評価に関する取扱の平等についての権利」が定められ、この差別撤廃条約を受けて、雇用機会均等法が昭和六一年より施行されている。

このような国内法及び国際秩序の到達点からするならば、性別を理由とする合理性を欠く差別の禁止は労働法の公の秩序を構成しているというべきである。

(3) しかるに、シャープライブや被告は、長年にわたって労基法や公序に反する男女差別の労務管理を行ない、原告に対して昇格、昇進、職能給昇給及び賞与査定における男女差別を行なってきたものであり、被告らの行為は不法行為に該当する。

(二) シャープライブ及び被告の債務不履行

使用者は、憲法、労働基準法等の理念から導かれる信義則上の義務として、労働者を平等に取り扱うべき労働契約上の義務を負っている。しかるに、シャープライブや被告は、原告に対して昇格、昇進、職能給昇給及び賞与査定における男女差別を行ったのであり、かかる取扱いは、被告会社の平等取扱義務違反であり、債務不履行に該当する。

(三) 被告の責任

被告は、シャープライブと原告との労働契約をそのまま承継しているから、右の不法行為または債務不履行によって原告に生じた損害を賠償する責任を負うものである。

(四) 損害

(1) 差額賃金相当損害金

原告は、昇格、昇進、職能給昇給及び賞与査定における男女差別によって、差別がなければ支払われたはずの賃金と現に支給された賃金との差額相当の損害を被った。原告に対する差別がなか(ママ)ければ、原告は、同一条件男性の平均に等しい賃金、賞与を受給したと考えられる。

そして、昭和六〇年以降平成一一年一一月までの間に、原告に支払われた賃金および賞与の内訳は、別表2の原告の賃金欄記載のとおりである。他方、同期間における同一条件男性の賃金及び賞与の平均額の推移は、別表2の「同一条件男性社員の賃金」欄記載のとおりである。

よって、原告は被告に対し、不法行為または債務不履行に基づき、次の差額賃金相当額の支払いを求める。

ア 過去の差額賃金額(昭和六〇年四月から平成一一年一一月まで)基準賃金差額 一九〇四万五二〇〇円

賞与差額 一〇九八万六三八一円

イ 将来の差額賃金額(一九九九年一二月以降)

毎月一三万三二〇〇円

(2) 慰謝料

シャープライブ及び被告の処遇により、また、本件審理において労働者としての能力批判を受けたことにより、原告は耐えがたい苦痛を味わった。

原告の右精神的苦痛を慰謝するには、慰藉料五〇〇万円が相当である。

(3) 弁護士費用

弁護士費用は、三〇〇万が(ママ)相当である。

2  地位確認請求について

職能資格制度における格付は、労働者と使用者の包括的合意にもとづいて使用者に付与された格付決定権の行使であり、使用者は一定の裁量権を有するが、その裁量権行使は強行法規や公序良俗に反するものであってはならない。

しかるにシャープライブが、原告に対して行ってきたB3あるいはB4という格付行為は、男女差別に基づくものであり、労基法四条、民法九〇条に違反するものであって、無効である。

労基法一三条の趣旨からして、無効とされた格付については、原告に対し男女差別のない格付が行われたとしたらいかなる格付がなされていたかを判断し、その格付をもって補充解釈すべきである。そして、原告には、昇格を遅らせる特段の事情はないから、男女差別がなければ、原告は同一条件男性の平均格付と同等の格付を受けていたと考えられ、平成元年にはS3に昇格したものとされるべきである。

被告は、シャープライブと原告との労働契約をそのまま承継しているのであるから、原告をS3の格付として扱うべき義務がある。

二  被告の主張

すべて争う。

(争点3―消滅時効―について)

一  被告の主張

被告は、予備的に消滅時効を援用する。

仮に、不法行為が認められるとすれば、民法七二四条により、損害賠償請求権は原告が損害及び加害者を知ったときから三年で消滅時効にかかるところ、原告は昭和五一年当時には、シャープライブで男女間に格付の差別があると考えて、労組に相談していたのであって、その当時既に損害を被っていたことを認識していた。

そうすると、本訴提起が平成七年三月三日であるから、平成四年二月分以前の損害賠償請求権は時効消滅している。

二  原告の主張

1  不法行為責任について

賃金差別訴訟における「損害」の認識には、賃金格差の認識に加え、その格差が違法な賃金差別によるとの法的認識まで必要というべきである。

しかるに、原告は、平成五年ごろに森裕一に相談し、オールシャープにおける男女の全体的な賃金の状況を知り、人事制度の仕組みを理解するようになって、賃金格差の実態と、その格差が違法な男女差別によるものであるとの認識を有するようになったものであるから、それ以前は消滅時効は進行していない。

2  権利の濫用について

被告は、違法な男女差別を継続しており、その違法性の程度は極めて強い。

他方、賃金差別という事案の特殊性から、原告に対して被告の違法行為を早期に認識し、法的手段に訴えることを期待するのは極めて困難である。

かかる状況において、被告が、法違反を継続しながら、消滅時効を援用して責任を免れようとするのは、権利の濫用である。

第三(ママ)当裁判所の判断

一  被告における男女間の基本給及び格付の格差

1  証拠(<証拠・人証略>)及び前記前提事実によれば、以下の事実が認められる。

(一) オールシャープにおける賃金及び格付の男女間格差

シャープ株式会社と関係会社では、基本的な部分では同一の職種別賃金制度が適用されており、従って、これに関連する個人格付や人事考課も同一の制度が適用されている(但し、職務発令については、関係会社には関係会社基準が適用されて、シャープ株式会社におけるよりも低位の格付で役職の職務発令ができることとされている。)。

そこで、労組が組合員の賃金についての調査の結果を掲載した調査時報からオールシャープにおける組合員の男女別の平均基本給や格付の状況を抽出すると、以下のような格差がある。

(1) 賃金格差

平成元年度及び平成六年度の高卒従業員の男女間における平均基本給を比較すると、いずれの年度においても、定期採用か不定期採用かの別に関わらず、概ね基準年齢二四、五歳までは同程度の賃金水準で推移しているものの、その頃から男性のほうが女性より高額になるとの格差が出始め、その格差は基準年齢が進むに連れ次第に拡大していっている。

(2) 格付格差

格付A4・B4の下限年齢である基準年齢二三歳以上の者(ただし、未格付者を除く。)で、A4・B4以上に格付されている者は、昭和六〇年度において、男性が約九三パーセントであるのに対し、女性は一〇パーセント程度にすぎず、平成三年度においても、男性についてはほぼ変わりなく、女性は三二パーセントである。基準年齢二三歳についてみれば、昭和六〇年度において、男性が約三六パーセントであるのに対し、女性は約一パーセントである。

原告と同一基準年齢のオールシャープ高卒男性社員でM4(現行のB3)に格付された者は、昭和四八年度には一名となり、昭和五三年度以降は存在が認められない。

格付が上位になるほど、下限年齢を満たす者のうちに占める当該格付以上に格付された者の比率は男女とも低減してゆくが、男女間の格付の格差は消滅することなく、格付S4の下限年齢である基準年齢三四歳以上の者のうち、S4以上に格付されている者は、右両年度とも、男性では十数パーセントであるのに対し、女性はほぼ〇(ママ)である。

また、調査時報の平成八年度及び平成一〇年度の高卒、不定期採用の四〇歳以上の男女の格付分布状況は、別表4のとおりであり、これによれば、平成八年度においてS2以上に格付された男性が七八パーセントであるのに対し、女性は八パーセントに過ぎず、同様に平成一〇年度においては男性が八六パーセントであるに対し、女性は、九パーセントに過ぎない。

(3) 賃金と格付との相関性

昭和四五年度から平成一〇年度までの原告と同一基準年齢、高卒の男性従業員(採用区分なし)の格付と平均基本給の推移は別表6のとおりである。これによると、格付が上位になるほど平均基本給も高額となっている。

高卒、不定期採用者の中には、原告より基準年齢が高いにもかかわらず、基本給の低額な者あるいは年齢を考慮すると原告と同程度と考えられる者も若干存するが、それらの従業員の職群及び格付等を含めた詳細は別表7のとおりである。

(二) シャープライブにおける原告と同一条件従業員の格付の男女間格差

(1) 別表1によれば、シャープライブにおける原告と同一条件男性の平均格付は、昭和四五年度にはM5(現行のB5)に、昭和四八年度にはH(現行のS2)に、平成元年度にはS3となっているのに対し、原告が、当初の格付M4(現行のB3)からB4に昇格したのは勤続二八年目の平成三年であった。また、別表3によれば、昭和六〇年度から平成六年度までの原告の格付は、いずれの年度においても同一条件男性の最低の格付であるB5よりも低く、原告と同一条件女性の最高の格付でもB5にすぎない。別表5は、別表3の格付分布状況を平成一〇年度まで延長して付加したものであるが、同表によって平成一〇年度までの格付分布をみても、男性は平成八年度には、最低でもS2になっているのに対し、女性でS2になっている者はいない。

(2) シャープライブの近畿統括営業部に限ってみると、別表8のとおり、平成六年一二月現在におけるの(ママ)男性従業員二二八名のうち、管理職は七九名、専門職(S職)は九二名で、専門職以上の比率は約七五パーセントに及んでいるのに対し、女性従業員六四名のうち、管理職に就いている者はなく、専門職に昇格している者もわずか二名で、専門職以上の比率は約三パーセントに過ぎない。

(3) 平成六年四月において、原告が所属していたシャープライブ近畿統括中央商品受注センターに在籍する従業員の人員構成は別表9のとおりである。

2  以上の事実によって、シャープライブにおける男女間の賃金及び格付の格差について検討する。

(一) まず、別表6から、オールシャープにおける高卒で原告と同一基準年齢の男性従業員(組合員)の格付と基本給との間には、一部の例外を除き、格付が上位になるほど基本給も高額となっており、その間に密接な相関関係があることは明らかである。

他方、高卒従業員(組合員)の場合、年齢とともに男女間で平均基本給に格差が生じ、次第に拡大するというのであるから、そうすると、格付においても同様に格差が生じているものと推認することができるし、現に格付下限年齢充足者のうちで当該格付以上に格付されている者の比率や不定期採用の四〇歳以上の従業員(組合委員)でS2以上に格付されている者の比率をみても男女間では顕著な差があると認められる。

もっとも、右に認定した男女間の賃金格差や別表4の統計数値においては、勤続年数(とりわけ不定期採用の場合は基準年齢が同一であっても勤続年数が異なるということは多分に考えられる。)や職群の違いが考慮されていなかったり、下限年齢充足者のうちの当該格付者の比率についても、これらに加え学歴の差も考慮されていないなどの欠陥もあるが、全体的な傾向を把握するための統計数値としての価値まで否定しなければならないものではない。また、オールシャープの中には、原告より基準年齢が高齢であるにもかかわらず、原告より基本給が低額ないし同等とみられる従業員(組合員)も存するが、少数であり、全体的な傾向を左右するものとは考えられない。

これらの統計数値等によれは、オールシャープにおいては、全体として、基準年齢が高齢になるに伴い、男性従業員のほうが女性従業員より、より上位に格付され、賃金(基本給)においてもより高額になるとの傾向が存することを看取することができる。

(二) 次に、原告が所属していたシャープライブでは、近畿統括営業部全体でみる限り、女性の専門職以上の比率は男性と比較して著しく低いし、近畿統括中央商品受注センターに限ってみても、在職する所長以下一三名の男性従業員中、B5に格付されている一名を除き、他はすべてS2以上に格付されているのに対し、女性従業員四名中S2、B5に格付されている者は各一名に過ぎない(他はB4、B3)のであって、男女間の専門職格付比率の格差は著しいというべきである。

また、別表1ないし3及び別表5からすると、原告のみならず原告と同一条件女性(組合員二名)の昇格は、原告と同一条件男性(組合員)に比して遅れており、その遅れは著しいというべきである。

もっとも、別表8及び別表9の数値は、いずれも、勤続年数や基準年齢、学歴、採用区分、正社員か否かの差を考慮したものではないし、別表3及び別表5の女性従業員の母数は、原告を含めわずか三名に過ぎず、その統計的価値に疑問がなくはない。

しかしながら、オールシャープにおいては、同一の賃金制度や人事制度が適用されており、そこでは、右のとおり、全体として格付及び賃金の男女間格差が生じていることが認められるのであり、このことをあわせ考えるときは、シャープライブにおける男女間の格付の格差もオールシャープの全体的傾向をそのまま反映したものであると考えるのが相当である。別表3及び別表5の統計数値についても、女性の母数が僅少で、それ自体としては統計的価値の乏しいことは否定できないが、オールシャープにおける別表4の統計数値とあわせ考えるときは、シャープライブにおける女性従業員に対する処遇が、オールシャープにおけると同様の傾向を示していることを裏付ける意味まで否定されるべきではない。

なお、被告は別表1ないし3及び別表5の同一条件男性の「格付」をもって同一条件男性の平均の格付とすることの合理性を争っており、確かに、同一条件男性の平均基本給から、右「格付」を推定する過程においては定期採用か不定期採用かの区別が考慮されていないが、前記のとおり、格付と賃金との間には、一部の例外を除いて明らかな相関関係が認められるのであるから、正確性には幾分欠けるとしても、統計的な意味においてであれば、右「格付」をもって、同一条件男性の平均格付と推認することも著しく不合理とまではいえない。

以上によれば、シャープライブにおいても、オールシャープ同様、全体としては、男性の方が女性より早く昇格して、その結果、高齢になるに伴い、より上位に格付されることになるとの傾向があると認められる。

このような傾向が認められることからすると、シャープライブにおいては一般的にも女性に不利益な男女差別の処遇がなされており、原告の格付が同一条件男性の昇格に比し著しく遅れているのも、そのような男女差別の処遇の結果ではないかとの疑念が生じる。

(三) ところで、右のような傾向は、我が国の多くの企業においてみられるところである。その原因の一としては、男性は経済的に家庭を支え、女性は妻として家庭にあって内助の功により夫を支え、また子供を養育するという役割分担意識のもとで、我が国の企業の多くにおいて、従業員の定年までの長期雇用を前提に、雇用後、企業内における訓練などを通じて能力を向上させ、その向上に伴う労働生産性の向上にともなって賃金を上昇させる年功賃金制度をとるところ、女性従業員は短期間で退職する傾向にあり、企業としても、短期間で退職する可能性の高い女性従業員にコストをかけて訓練機会を与えることをせず、単純労働の要員としてのみ雇用する点にあることが指摘される。女性労働者に深夜労働などの制限があることや出産などに伴い休暇を与えざるを得ない事情が生じる可能性も、企業が、女性を単純労働の要員としてのみ雇用する一原因となっている、これらの事情は、男性と同一条件で雇用した女性労働者にとっては、男女を区別して処遇し、賃金、昇格等に格差を設けることの合理的理由とはなしえないものであるが、他方、女性労働者の側においても、右役割分担意識を否定せず、働くのは結婚又は子供ができるまでと考えて、長期間就労することを希望せず、将来の昇進、昇格には関心を持たず、企業内の教育訓練に消極的で、労働に対する意欲の低い者も多くあることは否定できず、この場合には、男性労働者との間に賃金や昇進、昇格に格差が生じても、仕方がないものである。

右のような役割分担意識や女性の意識は、原告が雇用された昭和三八年ころから現在までの間、次第に変化してきていることは公知であるが、前記認定のとおり、オールシャープで、格付A4・B4の格付下限年齢充足者のうち、その格付を受けている女性従業員者は、昭和六〇年度では一〇パーセント程度にすぎなかったものが、平成三年度では三二パーセントに増加していることは、背景にあるそのような社会意識の変化によるものと考えることもできるし、別表9によって、右中央商品受注センターの在籍状況を子細に検討すると、男性従業員の勤続年数は女性より概して長く、B5に格付されている女性は高卒、定期採用、勤続一〇年であるところ、これと同一条件の男性従業員も未だB5の格付にとどまっており、S2に格付されている女性は短大卒、定期採用、勤続一三年であるが、大卒、定期採用、勤続一六年であるにもかかわらず未だS2の格付である男性従業員や、不定期採用ではあるけれども、大卒、勤続二一年で未だS2の格付である男性従業員も存するのであって、現時点で、勤続年数の比較的浅い層をみると、男女間格差も相当に縮まってきているのではないかとも考えられる。

また、個々の労働者を個別的にみれば、その意図や教育、訓練にかかわらず、能力の向上ができない場合もある。

そうすると、全体的な傾向として、右のような格付及び賃金の男女間格差が存するという事実から直ちに、オールシャープ、ひいてはシャープライブないし被告において、男女差別の処遇が行われているとまで推認することはいささか飛躍があるというべきである。

二  シャープライブの人事制度とその運用

原告は、オールシャープやシャープライブにおける人事制度には、構造的に種々の問題があり、これが男女差別を容易にしており、その結果、前記のような格付や賃金における男女間格差を生み出していると主張しているので、以下ではこの点について検討する。

(一)  まず、原告は、シャープライブの人事考課は、評価項目の抽象性、分布制限の存在、考課結果の非公開等恣意的な運用を許すものとなっていること、個人格付の前提となる職種格付自体が差別的に運用される可能性があること、専門職への昇格が職能要件によっても運用される結果性差別的運用がなされる可能性があることなどを主張する。

確かに、シャープライブの人事考課制度には原告が指摘するような問題点ないし改善すべき点があることは認められるものの、価値判断を不可分とする人事考課の性質からして、評価的要素を払拭することは不可能というべきである。職種格付や専門職昇格基準の運用という点についても、原告が主張するところは、結局のところ評価的要素が含まれていることを問題にしているに過ぎない。

これらの評価的要素はいかなる制度に改めたところで、人事制度の性質上完全に排除することは出来ないし、このような評価的要素が含まれることが、必然的にあるいは趨勢として女性差別に繋がるというものではない。

(二)  次に、原告は、シャープライブの仕事の配置を問題として、右の人事制度が性差別的に運用されてきたとして、第一に、男性従業員が入社間もなく上位格付への足がかりとなる販売職(狭義)に配置されるなどの計画的な仕事の配置がなされるのに対し、女性は販売職には配置されないと主張する。

確かに、証拠(<証拠略>、原告本人)によれば、原告が「被告会社在籍者における一〇年間の昇進昇格状況」として取りまとめた男女九五名(男性八〇名、女性一五名)をみる限り、男性は、セールス経験を有する者が多いのに対し、女性はその経験を有する者は存しないことが認められるが、右は、シャープライブないし被告の従業員の全体数からするとごく一部に過ぎないうえ、右の九五名についてみても、男性のすべてがセールス経験を有するわけではなく、その中には高位の役職にまで昇進している者もいるし、他方、セールス経験を有する男性が、その職務従事中に専門職(S職)に昇格したか否かまでは不明である。

一般的にみても、セールスなどの営業の仕事においては、一定の実績がノルマとして課されたり、成績評価にあたっても営業努力より実績が重視されたりするなどの厳しい面が伴うのが通常であって、これに配置されること自体が上位昇格を容易にしているとか、逆に、これに配置されないことが昇格の可能性を封じているなどとはいい得ないものである。

そうすると、販売職への配置が直ちに上位への個人格付に繋がるかのようにいう原告の右の主張は、根拠が十分でないというべきである。

第二に、原告は、男性職ないし男性が多く配置される仕事には上位までの格付が予定されていると主張するが、シャープライブに男性職、女性職といった区別があることを認めるに足る証拠はない。ただ、一般的にいって、仕事の性質によっては旧来の役割分担意識を反映して男性が多く配置されてきた職種と女性が多く配置されてきた職種があることは否定できず、原告が女性職として例示している「ハイクック」には、女性が配置されることが多いであろうと想定されるところ、これについては格付B4までしか予定されていない(<証拠略>)が、女性がこのような上位格付のない仕事にしか配置されないとか、そこに固定されているとの事実を認めるに足る証拠もない。現に、後記のとおり、原告自身が配置され従事していた業務課での内勤事務の仕事は、職種名「販売推進企画」の該当単位職種「販推企画」または「販売網企画」に該当する(<証拠略>)と認められるが、これらはS2までの格付がある。

なお、これに関して、原告は、女性職ないし女性が多く配置される仕事に比べ、男性職ないし男性が多く配置される仕事では、仕事内容においても上位への個人格付が容易なものとされているとして、例えば右販推企画等においてS2に格付されるためには、他者に対する「指示・指導」「教育」等管理職的業務まで要求されているなどと主張するが、販売推進企画の職種に男性が配置されないと認めるに足る証拠はないし、右にいう「指示・指導」「教育」等(<証拠略>)は職種としての仕事内容の説明であり、部下ないし下位の格付者に対する管理職業務としての「指示・指導」「教育」が要求されているものでないことは明らかであって、原告は仕事内容の説明を誤解している。

(三)  以上のとおりであり、シャープライブや被告の人事制度には、人事考課はもとより、一見すると個人格付に客観性を付与しているように見える職種格付においても、評価的要素が少なからず含まれていることは否定できず、これらが恣意的に運用されたとすれば男女差別に繋がる可能性があるという限度では原告の主張を肯定することができる(ただし、これは、シャープライブや被告の人事制度に特有のこととはいえない。)が、現に、右のような人事制度が男女差別的に運用されてきているとの主張については、これを認めるに足る証拠はないというべきである。

三  原告に対する仕事差別(原告の担当職務と勤務状況)

原告の格付が、シャープライブにおける同一条件男性の平均格付と比して著しく低いものであることは前記認定のとおりであり、これに関して、原告は、その原因は、仕事配置のうえでのシャープライブないし被告による男女差別であると主張しているところ、シャープライブにおいては、年齢が高齢になるに伴い男性従業員のほうが女性従業員より、より上位に格付されている(したがって、男性従業員の方が一般的には早く昇格している。)との傾向が認められることや人事制度が、現に男女差別的運用がなされているとまでは認められないとしても、恣意的に運用される可能性を孕んでいること、職種別賃金制度のもとでは基本的にはいかなる仕事に配置されるか個人格付を決定するうえでとりわけ重要であることなどと相まって、右の格差を正当とする合理的理由がない限り、原告に対する仕事配置における男女差別を推認できないものではない。

これに対し、被告は、原告の現在の格付が、原告の担当職務と勤務ぶりに照らし、相当なものであると主張している。

そこで、以下では、原告のこれまでの勤務状況と原告に対する格付の相当性について検討することとする。

1  証拠(<証拠・人証略>、原告本人)によれば、原告の担当業務や勤務状況等について、以下のとおり認めることができる。

(一) 原告の担当業務

(1) 原告は昭和三八年七月に大阪シャープに入社し、管理部財務課に配属され、主として売掛金管理の業務に従事した。

(2) 昭和四一年二月に、大阪シャープの第二営業部が分離され、大阪市の日本橋電気街のみを販売エリアとする浪速シャープとして独立したのに伴い、原告も浪速シャープに移籍した。

浪速シャープは社長以下一六名で発足したもので、社内の業務は、管理課(男性二名、女性三名)、営業課(男性八名)、倉庫担当(男性二名)ほか一名に分担されてはいたものの、小規模であることなどから、各従業員とも互いに自己の担当業務を超えて他課の業務を代替することも少なくなかった。

原告も、経理、財務その他一般事務を分担する管理課に配属され、売掛金台帳や伝票の管理、請求書の作成発送等の業務に従事していたが、右の本来業務のみならず営業課の分担業務である受注やサービス業務(苦情処理や出張修理の受付等)、営業の補助業務(緊急時の商品配送や部品の調達、配達等)をも行ったほか、女性従業員の当番とされていた早出清掃等も担当した。

(3) 昭和五一年ころ、原告は、管理部経理課の機械室においてオペレーター業務に従事していたが、腕の異常(原告自身は腱鞘炎に罹患したというが、これを認めるに足る証拠はない。)を覚えていたことや同僚男性が昇進して行くのに原告は未だM3のまま昇格していないことを不満として、労組を通じて配置換えを希望するなどした。

その結果、原告は、同年、管理部経理課から商品営業部業務担当(昭和五七年四月に業務課に、昭和五八年頃に業務部となり、平成六年から販売助成部となった。)を短期間経由して、翌昭和五二年四月頃商品課(昭和五四年頃、商品管理部と名称変更)へ配置換えとなり、同課では、販売店からの受注、伝票の集計等を担当した。

(4) 原告は、昭和五四年九月、再び商品営業部業務担当へ配置換えとなった。当時の直属の上司は課長才木であった。

同部署(後の業務課)は、販売計画の立案や販売実績集計等の販売企画業務及びカタログ発注等の販売促進支援業務を行っていた。

原告は、販売実績集計表等の資料作成や、シャープ株式会社からの通達等の管理(配付、ファイリング、問い合わせに対する応対)、カタログ等販売助成物管理の補助を担当した。

この間、昭和五七年四月に商品営業部業務担当は業務課として発足し、原告の上司には、才木の後任として宮崎富孝が課長に就任した。

昭和五九年七月、原告の担当は業務部パソコンルームでのオペレーション業務に変更になった。

パソコンルームは、もともとはパソコンの機能等を従業員らが理解するための学習用の部屋として設けられていたものであったが、浪速シャープの社内業務の機械化、効率化に役立てるとともに、販売店に対してパソコンによる業務効率化システムを提案するためのものとして、昭和五九年七月に新たに発足したものであった。

パソコンルームでは、原告と重永恵子(昭和五三年入社の正規従業員)ほか一、二名のパートタイマーが配属されており、原告は、主として価格表、販売店四店舗の顧客住所録の作成を担当している。

なお、原告は、昭和五五、六年頃から昭和六三年頃にかけて、人事申告書で「ハイクック」への配置換えを希望していたが、その程度は「できればすぐに」「一年以内に」「機会があれば」の三段階のうちで最も程度の低い「機会があれば」というものであった。

平成二年頃、後輩である重永がB4に昇格し、これを知った原告は、自らの格付が上がっていないことを不満として、その頃、部長に昇進していた宮崎富隆(ママ)に、格付が上がらない理由を尋ね、営業でも何でもやる等と申し出たことがある。

(5) 平成二年九月に本格的なコンピューターの導入でパソコンルームは廃止となり、原告は、同年一〇月二五日、商品管理部へ配置換えとなり、以後商品受注等の例外処理業務を中心として、伝票の整理、物品受領書取得の確認、支店別の二、三級品の在庫状況一覧表の作成、預かり商品の在庫管理その他書類作成、ファックス等雑多な業務を担当している。

例外処理業務は、通常の受注業務(基本業務)が受注内容をコンピューター入力することにより、流通センターに伝票が流れ、受注センターから商品が配送させるシステムになっているのに対し、このような基本業務に乗らない業務であり、顧客への商品直送、二、三級品の売上業務、戻品処理、在中切替処理、転売処理、商品貸出、振替関係、自社倉庫の在庫管理を行うものである。

この間、平成四年四月にシャープライブが設立されて浪速シャープの商品管理部は近畿統括営業部中央商品情報センターに、翌平成五年四月には中央商品受注センターに順次名称変更し、さらに、平成七年三月にシャープライブの商品受注業務がシャープエレクロ(ママ)ニクスに委託されたことに伴い、原告は被告に転籍し、その後、平成一〇年一〇月シャープライブが被告に吸収合併され、中央商品受注センターも西日本商品受注センターとなった。また、西日本商品受注センターでは基本業務を尼崎市猪名寺に移転したが、例外処理業務は、従前どおり大阪市浪速区日本橋の通称シャープ恵比寿ビルに残留となったため、原告は係長田中洸と二人で例外処理業務等に従事している。

また、この間、原告は、平成五年及び六年の人事申告書で「ハイクック」への配置換えを希望したことがあるが、いずれも第二希望であった。

(二) 勤務状況

(1) 右のとおり、原告は昭和五二年四月頃商品課に配属となり、受注業務等に従事し、昭和五四年九月頃から商品営業部業務担当(後の業務課、業務部。以下では、業務課となる以前及び業務部となった後も含めて「業務課」という。)に配属となり、パソコンルームに配置されるまで各種資料の作成等に従事したが、この間の原告の勤務状況は以下のとおりである。

ア 販売実績集計表等の資料作成

この当時、メーカー八社の集まりである「双葉会」では各社の毎月の販売実績を集計し、その実績数値を各社に発表するなどしており、浪速シャープでは、業務課で、双葉会への報告のための資料となる販売実績集計表の作成を行っていたほか、内部利用に供するものとして双葉会から入手した資料等をもとに半年間の販売実績累計や浪速シャープのシェア等を記載した表を作成するなどしていた。

販売実績集計表の様式は従前から決まっており、半年間の販売実績累計やシェア等を記載した表は、昭和五七年四月に業務課配属となった中川景策が、自らその様式を考案して作成するようになったものであり、これらの資料作成の主たる担当者は中川であり、原告はその補助としてデータの集計及び転記を担当した。

しかるに、原告の作業には、計算ミス、記入する数値の単位誤り、前年同期比を出す際に対比すべき期間を誤る等の入力ミスが多く、また、仕事の処理速度も遅く期日間際になるまで資料が提出されないため、中川や課長宮崎が残業して修正作業を行うこともあった。

イ 電話応対

取引先からの受注や苦情等の電話応対は、本来営業部等他課の担当であるが、営業担当者が出払っていたり他課の電話が使用中の場合などは、内勤の業務課がこれら外部からの電話に応対することも少なくなく、業務課では電話担当者は決められておらず、全従業員が適宜応対するものとされていた。

このため、原告も、商品課時代はもとより業務課に配属となった後も、取引先等外部からの電話の応対に従事した。

しかるに、原告は、最寄りの電話が鳴ってもなかなか出ようとせず、電話に出た場合でも、自社や自己の氏名を名乗らず、「もしもし」と繰返すのみの応対をして相手方の感情を害したり、在庫の問い合わせや担当者との取次依頼を受けた場合に、在庫確認や担当者との連絡に手間取り、通話を保留にしたまま相手方を長時間待たせ、電話を切られる等の不手際が多かった。また、営業担当者との連絡を依頼された場合に、その取次を失念するということもあった。さらに、取引先から注文を受けた際、当該取引先や、受注した商品、台数等を間違えて営業担当者に取り次ぐことが少なくなかった。

このため、営業担当者らは取引先から電話応対の悪さや注文どおり商品が届かないことについて苦情を言われ、業務課には、他課から、原告に取引先との電話応対をさせないようにとの申入れもなされた。

また、課長宮崎が、電話応対によるトラブル防止対策として、原告に、受信した電話の内容と応対を文書にして報告するよう指導したこともある。

ウ 通達等配付資料の管理

原告は、業務課において、業務上配付される社内外からの通達等の資料の管理を行っていたが、その内容は、基本的には、文書に記載されている宛先に(宛先が複数の場合は必要部数複写するなどして)配付し、リストに標題、発信部署等を記載して控えをファイルし、保存期間が過ぎたものは廃棄処分するというものであり、また、関係者からの通達に関する問い合わせにも応じていた。

しかるに、原告が資料管理を担当している間に、締日及び時刻の変更に関するシャープ株式会社からの通達や人事考課に関する同社からの通達が、担当部門に回付されることなく、宛先である代表者(社長)の机上に置かれたままになっているということがあった(もっとも、これらは変更締日前、あるいは人事考課資料提出期限前に通達の出ていることが判明したため、いずれも大きな問題となることはなかった)。

このため、課長宮崎や中川が業務課に配属されてからは、通達等の配付について、同人らが判断した上で原告に具体的な指示を行うこととなった。

エ カタログ管理等

原告は、カタログ等の販売助成物の管理にも関わっていたが、その主たる担当者は中川であり、カタログ発注等の判断は中川がしており、原告は、発注手続、荷受、配付、整理等の補助を行っていた。

原告は、売行の悪い商品のカタログが倉庫にあふれているのをみて、自らの判断で、営業担当者にそのようなカタログを配布し、販売店に持っていかせるなどもしていた。

(2) 原告は、昭和五九年七月から、パソコンルームに配置されたが、その経緯及び勤務状況は以下のとおりである。

ア 原告の電話応対に関して取引先や他課等から種々の苦情が寄せられていたこともあって、当時取締役であった金井優の判断で、パソコンルームの発足に伴い原告は対外的な電話応対のない同部署に配置されることとなった。

イ パソコンルームでは、昭和五九年七月の発足前に内田司及び河合雄一郎が必要なソフトの作成を終えており、原告ら同部署配置の従業員の基本的な業務は、右ソフトを使用しての入力業務で扱った。

原告が担当したのは、主として価格表と販売店(四店舗)顧客住所録の作成である。

このうち、価格表は、各営業担当者が販売店に商品価格を通知するための一覧表であり、機種名、標準価格(希望小売価格)、伝票仕切価格(販売店への社内基準価格)(ママ)NET価格(各販売店に実際に納入する価格)の項目を記載したもので、パソコンルーム発足前は各営業担当者が手書きで作成し、使用していたのをパソコンルームで作成するようになったものである。右の各項目のうち、NET価格以外はすでに決まっており(そのため、後に機種名のみ入力すれば、標準価格及び伝票仕切価格は自動入力できるようにソフトが改善された。)、NET価格のみ各営業担当者からの指示に従い入力するもので、価格表の作成は清書作業というべきものであった。価格表の作成は、夏、冬の新製品が発売される春、秋に集中するが、それ以外でも新製品の発売や価格変更に伴って修正等を必要とした。

また、販売店顧客住所録は、各販売店が顧客にダイレクトメールを送付するための住所録であり、本来各販売店で作成すべきものを営業担当者の営業活動支援の目的でシャープライブにおいて作成していたものである。ダイレクトメールのラベルは各販売店でイベントが催される都度必要となるが、住所録自体は、一旦作成しておけば、後は販売店からの情報に応じて個別的に修正すれば足り、大幅な見直しは年一、二回行われる程度であった。

原告の業務としては、そのほかにも売上日報(日々の売上実績の進捗率を各営業部門別に表示したもの)、当月累計実績表(当月の売上実績、売上計画達成率、前年同月実績比率等を、月数回、各営業部門別または各商品別にグラフや表にしたもの)の作成があり、具体的な作業としては、いずれも、プログラムに従い当日または当月の売上実績のデータを入力するというものであった。

さらに、原告は、仕事配分の均衡を取るためとの理由で、途中から、補填申請書(販売奨励金―いわゆるリベート―等の決裁を得るための申請書)の作成も分担させられるようになったほか、締日前などの多忙時には拡充申請書の作成にも関与していた。

他方、原告同様、正規従業員としてパソコンルームに配置されていた重永は、価格体系検討表(製品価格検討資料)、拡売申請書(伝票仕切価格以外で販売するための価格決裁申請書であり、決裁後はホストコンピューターに登録するための登録票となる。)、補填申請書、利益計算表(販売店別、営業部門別または営業担当者別の純売上、粗利益の実績表)、拡売予算管理の資料などの作成を担当していた。

ウ 右のとおり、原告の担当業務は各種資料についての既定数値等の入力作業であったが、原告は、数値や桁を間違えるなどの入力ミスが多く、処理速度も遅いため、価格表作成が集中する時期には営業担当者の要請に応じきれず、営業担当者の中には、原告が作成した価格表を手書きで修正して使用する者や、みずから価格表を入力して作成する者もいた。

また、原告が作成した入力ミスのある価格表を営業担当者が販売店に渡してしまい、販売店からの要求で値引きを余儀なくされるということもあった。

なお、重永はブラインドタッチによる入力ができたが、原告はこれを習得していなかった。原告は平成二年ころ社内のワープロ検定を一度受験したことがあるが、不合格となり以後は受験していない(重永は、平成三年頃四級に、平成六年頃三級に合格している。)。

入力ミスや入力手順の間違いなどによってパソコンが作動しなくなることがあり、そのような場合、パソコンルームの責任者であった河合や重永が、原告にその対処方法を教えていたが、原告はしばらくすると忘れてしまうため、再度、教え直さなければならないということもあった。

(3) 原告は、平成二年から商品管理部に配置換えとなり、以来、例外処理業務を中心に各種事務を担当しているが、この間、以下のことがあった。

ア 原告は、平成九年三月二九日に送付されてきた顧客直送の出庫伝票を入力する際、出荷年月日を右同日とすべきところ、これを四月一日で入力したほか、伝票番号、請求月、出荷年月日及び配送形態を誤って入力した。

原告は、この入力ミスの訂正を係長田中に依頼し、田中がこれを同年三月三一日と修正して入力し直した。田中が、右同日修正処理したのは、誤って入力された前日にならないと戻品入力が出来ないというシステム上の制約があることによるものであった。

ところで、右入力ミスを証するための書証(<証拠略>)は、平成一〇年七月二九日の本件第一九回口頭弁論で被告から書証として提出されており、原告は平成一〇年一〇月二三日の第二〇回口頭弁論の原告本人尋問において右入力ミスについて被告代理人から尋問されたが、その際、原告は、出荷年月日以外にも入力ミスがあることを指摘できず、また、田中が三月三一日に修正入力し直した理由について答えられず、システム上のことは分からない旨述べた。

イ 原告は、平成一〇年六月一六日、戻入依頼書に基づく戻品処理をする際、出庫伝票に納品先店舗を誤って入力した。これに気付いた原告は、右伝票を修正し、再度戻入処理をしようとして誤操作をし、エラーコードの表示が出たため、その処理を田中に依頼し、田中が翌日修正して入力し直した。

原告が、修正を田中に依頼したのは、原告は、エラーコード表を所持しておらず、修正方法が分からなかったことによる。

2  以上認定の事実に対し、原告は、種々の反論をしているので、その主要な点について、以下検討する。

まず、原告は、業務課(商品営業部業務務(ママ)担当や業務部の時代も含む。)時代における電話応対での受注ミスや応接態度、パソコンルームでの入力ミスの多発などは客観的な証拠もなく、被告の悪意の創作であると主張し、本人尋問でもこれらの事実を否定する供述をし、陳述書(<証拠略>)にも同旨を記載している。

確かに、これらの原告のミス等を裏付ける書面等の証拠は提出されていないし、証人宮崎の証言や陳述書(<証拠略>)の記載、証人内田幹雄の証言や陳述書(<証拠略>)の記載、証人中川の証言や陳述書(<証拠略>)の記載には、原告の配属部署、取引先から受けたという苦情内容等について、細部では齟齬する部分があるうえ、原告の受注ミス等の頻度について、証人内田幹雄が、同人に関するだけでも月一度くらいあったなどと述べ、また今田安亮の陳述書(<証拠略>)に、取引先からの非難の電話が同人だけでも日に一度はあったなどと記載している部分などはかなり誇張されていると考えられる。

しかしながら、原告はパソコンルームに移る前、伝票入力ミスを多発させており、自己改善目標として、ミスの減少を掲げていたこと(<証拠略>)、更に、右の各証言や陳述書の記載に加え、河合雄一郎、内田司、金井優、宮本文雄の各陳述書(<証拠略>)においても、原告が受注ミスや入力ミス等を多発させていたことが同様に記載されていて、その内容は概ね一致していることからすれば、原告が指摘するような細部の齟齬があるとしても、これをもって信用性を左右するほどの矛盾とは認められない。また、これらの証人や陳述書の作成者が、事実を虚構してまでことさらに原告をおとしめ、被告に加担しなければならない理由もない。

また、原告は、右証言等が信用できない理由として、証人宮崎が前任者から引継ぎを受けていないことや原告自身、始末書等を取られたことはなく、原告のかつての上司もその後順調に昇進していっていることなども主張しているが、本件では、懲戒や降格に繋がるような原告の失策の有無等が問われているのではなく、昇進しなかったことの原因となる原告の日常の仕事ぶりが問題とされているのであるから、関係者が問責されなかったことをもって、右証言等の信用性を左右する事情とすることはできない。

以上のとおりであり、右認定にかかる事実が悪意の創作であるという原告の主張は採用できないし、その他の反論も含め右認定に反する原告の供述や陳述書の記載は、採用できない。

3  そこで、右認定事実によって、被告が行った原告に対する格付が不当であったか否かについて検討する。

(一) 業務課時代(昭和五四年九月から昭和五九年七月まで)

この時期の原告の格付はB3であった。

この時期に原告が担当した主たる業務のうち、<1>販売実績集計表等の資料作成について、被告は、職種グループB3に格付される「販売推進企画<1>」の該当単位職種「販推業務」及び該当単位職種「販売網業務」に該当すると主張しているところ、右業務は単純な数値の入力作業であるから、被告が主張する職務格付は相当というべきである。

<2>電話応対は、職種一覧表上、特に規定されておらず、これについて被告は、別紙分類基準の総括定義B2またはB3に該当すると主張しているところ、原告が担当したのは主として取引先等外部からの取次等の単純な応対であって、自己の判断による裁量的な応対を任されていたものではないから、被告が主張する職務格付は相当というべきである。

<3>通達等の管理について、被告は、職種グループB2に格付される「一般事務」の該当単位職種「事務・技術・製造・販売部門の補助」に該当すると主張するところ、右業務は配付、綴じ込みという機械的な作業であるし、問い合わせに対する応対という点でも、該当通達等を綴りの中から選別してその内容を回答するというものに過ぎないから、被告が主張する職務格付は相当というべきである。

<4>カタログ等の販売助成物管理の補助について、被告は、職種グループB3に格付される「販売推進企画」の該当単位職種「販売網業務」に該当すると主張するところ、原告が担当していたのは機械的な補助業務に過ぎないから、被告が主張する職務格付は相当というべきである。

なお、原告はこの時期の担当業務に関して、補助的業務にのみ従事していたものではないと主張し、本人尋問で、昭和五四年に業務課へ配置換えになって間もないころ、社長今田の指示により、課長才木や中川景作(ママ)の協力をも得て、過去三年間の販売実績を表す資料(様式作成も含む)を作成したこと、カタログミスマッチの調整をして有効活用したことなどを供述し、陳述書(<証拠略>)にも同旨を記載している。

しかしながら、過去三年の実績資料作成という点については、前記認定のとおり、業務部では、かねてから双葉会への提出資料として販売実績集計表を作成しており、原告が既存の様式にしたがってその入力作業を行っていたことは認められるが、それ以外に、原告がいかなる資料を作成したというのか、原告本人尋問の結果によってもその内容は判然としないし、中川が業務課へ配属となったのは昭和五七年であり、原告が資料作成を行ったという時期とも齟齬しており、結局原告の業績と評価されるような資料作成がなされたか否かは不明というほかない。また、カタログの有効活用といっても、前記認定のとおり、売行が悪い商品カタログを営業担当者に配付したりしたというにすぎず、これをもって原告の業績とまで評価することはできない。

(二) 業務課パソコンルーム時代(昭和五九年七月から平成二年九月まで)

この時期の原告の格付もB3であった。

この時期に原告が担当した業務は、基本的には与えられた入力数字等をパソコンに入力することであり、これについて、被告は、右業務には、付帯して発生するトラブルに対応することも含まれていたとしたうえで、原告の仕事ぶりを考慮すると職種グループB3に格付された「情報管理<2>」の該当単位職種「オペレーション」に該当すると主張するところ、前記認定の原告の仕事内容や勤務状況からして、被告が主張する職務格付は相当というべきである。

なお、原告はこの時期の担当業務に関して、価格表の編集をも行っていたと主張するが、原告本人尋問の結果によれば、原告が編集と主張しているのは、プログラムの作成ではなく、結局、その内田司や河合雄一郎が作成したソフトを使用して価格表を作成する際に掲載機種選定や表内部での配置換えを行っていたというに過ぎず、基本的には右ソフトの使用上の工夫であり、右格付の範囲内にとどまると解される。

(三) 商品管理部時代(平成二年一〇月以降)

原告は平成三年度にB4に昇格した。

この時期に原告が担当した業務は例外処理業務を中心とする雑多なものであるが、これについて、被告は、概ね定型業務であるとして、職種グループはB2に格付された「一般事務」の該当単位職種「商品管理事務」、同B3に格付された「関係会社流通センター商品管理<1>」の該当単位職種「商品出入業務」及び該当単位職種「商品保管配送業務」、同B4に格付された「関係会社流通センター商品管理<2>」の該当単位職種「商品保管業務」に該当すると主張する。

他方、別紙「分類基準」によれば、職種グループB5の総括定義として「特定の専門知識及び関連部門に亘る実務知識又は技能を習得することによってなし得る創造的業務」と定義され、商品管理部門で職種グループB5に格付されている「関係会社流通センター商品管理<3>」の該当単位職種「商品管理業務」の職種概要説明は「仕入在庫計画と実績との差異を全般的に検討し、原因の分析、対策立案するとともに特殊な旧製品の不動品の消化検討、対策立案、推進及び品質管理上棚ざらし品、不良品等の発生原因の究明、調査を行う業務」、同該当単位職種「商品発送管理」の職種概要説明は「商品配送委託業者の有効管理による配送コスト削減策及び販売店への配送効率アップ策等の検討、立案及び折衝を行う業務」、同じく職種グループB5に格付されている「商品管理<3>」の該当単位職種「商品管理総括」の職種概要説明は「物的流通に基づく例外的事例を含めた商品管理の基本を理解し関連業務の幅広い知識に加えて諸法規や基礎理論を理解して行う業務」などとされている(以上、<証拠略>)。

原告が主として担当する例外処理業務は、基本業務に比較すると、多様である分臨機応変さが求められるとはいえ、その一つ一つは定型的な現業業務が中心であるうえ、原告は、出庫伝票の表記内容や誤記訂正の仕組みが十分把握できているとはいえない。このような原告の担当業務やそれに対する理解度などに照らすと、未だB5の職務に至っているとは(ママ)とまではいえず、したがって、被告が主張する職務格付は相当というべきである。

なお、原告は、本人尋問で、この時期の担当業務に関する業績として、伝票枚数を減らして効率化したことや営業部別及び販売店別に仕訳していた伝票を営業部別に仕訳して渡すようにしたことなどを業績として述べているが、原告が伝票綴りの枚数を減少させたとする点については、原告が事前に相談したと述べる山田光信は、陳述書(<証拠略>)で原告からそのような相談を受けた事実を否定しており、果たして原告の発案によってそのような変更がなされたかどうかすら疑わしく、仮にそうであったとしてもそれが直ちに右のB5以上の格付に繋がるものとはいい難いし、伝票の仕訳については、単に自己の負担を減らしたというに過ぎず、業績として評価できるものではない。

(四) 以上に鑑みるに、少なくとも昭和五四年以降の原告に対する格付は、その担当した職務の関係では、必ずしも不当とはいえないかのようである。

しかしながら、原告は、入社後、格付を受けて以来平成二年度まで(入社後二七年間)、M4又はB3にとどめ置かれたのであるが、男性の場合、原告と同一年齢のオールシャープ高卒男性社員でM4に格付された者は、昭和四八年度には一名となり、昭和五三年度以降は存在が認められないから、昭和五二年度までに存在したM4に格付されていた男性が仮に原告と同期に入社した者であるとしても、殆どの男性は入社後一〇年(高卒で定期入社の場合は一四年)までに、遅くとも一四年(高卒で定期入社の場合は一八年)までに昇格したものと推認される。右男性が不定期採用の場合には、より短期間で昇格したことも考えられる。このように男性については、原告と同様にM4又はB3に一八年を超えて留め置かれた例が認められず、殆どの男性は遅くとも一八年までにはM5又はB4に昇格したものというべきである。

原告は、M4又はB3の職務について、ミスや苦情を受けることが多いとしても、大きな失敗を犯したことはなく、仕事に対する意欲はあって、それなりの努力はしてきたことを認めることができ、平成三年にB4に昇格し、その後、その職務を遂行しており、右昇格が検討された平成二年に担当職務が変わったが、その前後に原告の能力が特段に向上したという事情もなく、別紙分類基準に記載の職務内容もB4にとりわけ高度なものを要求しているといえないところから、能力自体は、既にそれ以前からB4に昇格させても差し支えない程度はあったものというべきである。

そうであれば、原告が、男性の最も長期の期間よりさらに一〇年程度も長い二七年間M4またはB3に置かれたことは、原告の能力や労働意欲からこれを説明することができず、前述の男女格差の原因について考察したような女性を単純労働の要員としてのみ雇用するという風潮を反映したものといわざるを得ず、その合理性を肯定することはできない。したがって、原告の昇格の遅延は、男女を理由とする差別であるというべきである。

ところで、仕事の配置は、従業員各人の適性、発揮した能力、仕事の出来映え等を考慮しながら段階的に上位の仕事に移行させて行くというのが通常であるところ、昭和五四年に業務課に配属されて後の原告の勤務状況を見る限りでは、原告は、より上位へ格付されることが可能な職種に配置されていたにもかかわらず、与えられた仕事を十分に果たし、上位格付を可能にするような能力を発揮したとは、必ずしもいうことができないことからすれば、昇格がある程度遅れてもやむを得ないところがある。そこで、原告の勤続年数や、業務課での仕事において、原告自身もミスの減少を改善目標とするほどで、その勤務状況は、与えられた仕事を十分に果たしたとはいえなかったが、昭和五九年度には自己改善目標に従って改善の傾向があったと認められること(<証拠略>)、同年に担当職務を変更していることなど諸般の事情を考慮して、遅くとも、昭和六〇年四月にはB4に昇格させるべきであったと認める。

原告は、最終的には、S3まで昇格させるべきであると主張するのであるが、別紙分類基準によれば、B5に相当する職務が、事務職においては、「上司又は上位職者の一般的指示を受け、自ら計画推進する複雑な調査、分析、企画立案等の関連部門の業務遂行に関係する業務で、新規ないしは特殊な問題に対処し得る専門的知識及び経験に基づく判断・折衝・調整を必要とする業務及び後進者の実務指導も行う業務」であることからすると、前述の原告の勤務状況では、これを担当する格付まで昇格させなかったことは仕方のないところである。

原告は、低い格付にとどめ置かれたのは、シャープライブないし被告が、上位に職務格付された仕事を原告に配置しなかったことによると主張するのであるが、前述のとおり、原告は、より上位へ格付されることが可能な職種に配置されていた時期があったのであり、右主張は採用できない。

四  原告に対する昇進差別

被告の職種別賃金制度のもとでは係長への昇進は、S3に格付されることが必要とされており、原告は未だB4の格付でしかなく、その格付が不当とは認められないから、少なくとも原告に関しては、未だ係長に昇進しないことをもって、これが男女差別によるものとは認められない。

五  査定差別

原告は、未だB4の格付にとどめ置かれているのは査定における男女差別であるのみならず、職能給昇給及び賞与の査定において、シャープライブないし被告の査定は恣意的で男女差別があると主張しており、別表10によれば、原告に対し、平成四年度までは、一部の例外(昭和六三年度の職能給昇給)を除き、マイナス査定が続いていたところ、平成五年度以降はマイナス査定はなくなっており、この査定経過の不自然さは明らかである。そして、前述のとおり、遅くとも昭和六〇年四月には、B4に昇格させるべきであったのに平成二年度までB3に留め置いたことは男女差別であるといえること、証拠(<証拠略>)によれば、平成四年六月には、原告がシャープライブの社長宛てに格付の不当を訴える書面を送付していることや、平成五年九月には原告代理人らが、シャープライブ宛に男女差別を理由とする損害賠償を求める旨の内容証明郵便を送付したことが認められ、平成五年度以後の査定にはこれらが影響しているのではないかとも考えられることからすると、査定の公正さに疑問がないではない。

しかしながら、前記のとおり、原告の勤務状況はミスが多いなど決して良好ではなかったのであり、これに照らすと、従前原告がマイナス査定を受けてきたことは必ずしも不当とはいえない。昇格について男女差別があったことは、男性との比較での認定であり、その差別から直ちに査定差別が肯定できるわけではなく、また、平成五年度以降はマイナス査定がなくなったという不自然さについては、被告において訴訟係属等を予想し、紛争の拡大を恐れてマイナス査定を差し控えたということも十分考えられ、更には、原告自身も、当然ながら、社長に不当を訴えて後は、以前以上に慎重に職務に取り組むようになったであろうから、その結果マイナス査定がなくなったと考えることもできる。したがって、平成四年度以前の査定をすべて不当であったと断ずるには、未だ証拠が足りないというべきである。

六  責任原因

前述のとおり、シャープライブは、昭和六〇年四月から平成二年三月まで、原告をB3の格付のままとどめ置いたが、これは男女を理由とする差別といわざるをえないものである。男女という性を理由に格付を差別し、その結果賃金に格差を設けることは、労働基準法三条及び四条に反するものであり、被告の右差別扱いは不法行為を構成する。

七  原告の損害

(一)  前述のとおり、格付と賃金とは相関性を有するから、原告が昭和六〇年四月にB4に昇格したとすれば、賃金は増額したものと認められ、原告は以後、本来受けるべき賃金より低額な賃金しか受給していなかったということができる。しかしながら、昇格した場合に増額すべき金額については、平成三年の昇格時における増額が八一〇〇円に過ぎず、昇格しない場合でもそれ以上に増額したときもあり、昭和六〇年の昇格によっていかほどの金額が増額したかは、これを具体的に明らかにする証拠はなく、これを認定することはできないというべきである。また、昭和六〇年四月にB4に昇格した場合の、その後に支払われるべき賃金の額についても、これを認定するに足りる証拠はない。原告は、同一条件男性の平均に等しい賃金、賞与を受給したはずであると主張するが、原告が同一条件男性の平均の格付に至っていないことは前述のとおりであり、これを採用することはできない。そうすると、本来原告が受けるべきであった賃金と現実に支払を受けた賃金の差額については、これを具体的に認定することができないというべきである。

(二)  そこで、慰藉料について検討するに、原告が格付について差別を受けたことにより、著しい精神的苦痛を受けたことは明らかというべきである。そこで、これによって具体的には認定できないものの本来受けるべき賃金より低額な賃金しか受給していなかったことを含め、本件記録から窺われる諸般の事情を考慮し、原告に支払われるべき慰藉料としては、五〇〇万円をもって相当とする。

(三)  弁護士費用については、五〇万円を相当と認める。

八  消滅時効

被告は、原告の不法行為に基づく損害賠償請求権については、原告が昭和五一年当時には、シャープライブで男女間に格付の差別があると考えて、労組に相談しており、その当時既に損害を被っていたことを認識していたから、本訴提起の平成七年三月三日から三年前である平成四年二月分以前の損害賠償請求権は時効によって消滅したと主張するが、原告が、昭和五一年ころに、昇格しないのを不満に思って労組に相談したことは認められるものの、当時の原告の認識は漠然としたもので、男女差別が存在すると認識していたとまでは認めることはできない。してみれば、被告の消滅時効の主張は理由がない。

九  結語

以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し五五〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成七年三月一八日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を、仮執行の宣言について同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松本哲泓 裁判官 松尾嘉倫 裁判官 和田健)

別表2 原告の基本給の推移と同一条件男性社員(高校卒業・不定期入社・労働組合員)との差額賃金

<原告の基本給略。別表10参照>

<省略>

別表4 オールシャープ高卒・不定期採用で40歳以上の格付け比率

<省略>

別紙 遅延損害金一覧表

<省略>

別表5 原告と同一条件社員(高卒、不定期採用で同一基準年齢のシャープ労働組合員)の基本給と格付分布

<省略>

別表10 原告の賃金の詳細推移(昇給査定と賞与査定に関して)

<省略>

別紙 職群分類と定義

<省略>

別紙 職種体系変遷経過対応表

(昭和五〇年改定)

<省略>

(昭和五八年改定)

<省略>

別紙 分類基準

<省略>

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